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事業貢献とデザインスキルを両立するデザイナーをいかに生むか——CAMが明かす、自走するデザイン組織

2019年2月22日、株式会社サイバーエージェントが主催する『CA BASE CAMP2019』が開催された。本イベントは、同社が2018年にスタートしたエンジニアやクリエイターによる社内技術カンファレンスの第2回目だ。

『デザイナーの成長と事業の成長がリンクし、自走するデザイン組織』と題したセッションでは、サイバーエージェントのグループ企業であるCAM QOL技術本部CD局局長の近藤圭氏が登壇。

デザイナーが長期的に事業に関わり続けるメリットとリスク、「センス残高」を貯えるためのCAM内の取り組みについてなどを軸に、個々のデザイナーの成長から組織を自走させる仕組みについて語った。

効率的な事業成長と、デザイナーの挑戦機会とのバランス感覚

CAMは現在、占いコンテンツを提供する「占い&ライフスタイル事業」と、アーティストファンサービスの企画・運営などを行う「ファンビジネス事業」の2つの事業領域を柱に据えている。これに、新規事業と広告事業を加えた計4領域のいずれかに、CAMのデザイナーは携わっている。

「私たちは”Be a Fanatic(狂信者であれ)”というフレーズを掲げ、ユーザーとクライアント、そして作り手である自分たち自身が熱狂できるプロダクトを作る会社です。

主軸とする2つの事業領域には現在、約10名のデザイナーが、新規事業と広告事業には3名のデザイナーがそれぞれアサインされています。ただ、いずれもひとり1サービスを担当するのではなく、ひとつのサービスに複数人のデザイナーが関わったり、複数のサービスに関わるなど、プロジェクトの種類や、規模、期間もさまざまです」

今回登壇した近藤氏は、占い&ライフスタイル事業におけるクリエイティブのクオリティコントロールや、新規サービスのクリエイティブディレクションを担当。それと並行し、デザインチームやディレクターチームのマネジメントも行う。

各事業領域を俯瞰して、人員を配置。クオリティ担保やデザイナーの統率を行いながら、サービスをどう拡大するかをディレクターと共に考えるのが近藤氏の役割だ。

CAMでは、デザイナーが事業を横断的に見ることで、成功ノウハウを横展開し、あるサービスでハマらなかった戦略や仕組みも、別のサービスでクイックに試すことで、より効率的な事業成長へ繋げる役割も担っているという。

ただ、いくつもの事業に携わると、ともすれば“社内外注”的な立ち位置になる恐れもあるだろう。CAMでは事業成長をメンバーのモチベーションへしっかり繋げるよう、評価やKPIにも深く関わることを求めている。

「長期的に同じ事業に関わる中では、、KPIをしっかりとセットし、それを追いかけて達成することがモチベーションに繋がるようにしています。一回作って終わりではなく、作ったものがどのような成果を残せているかは重要ですよね。成功してサービスが拡大すれば評価も上がるので、これもモチベーションを保つ大切な要素となっています」

一方、このシステムにはデメリットもある。近藤氏が挙げたのは、アウトプットレベルの低下だ。安定的に事業にコミットした結果、手癖でこなせるようになり、デザイン的な挑戦をしなくなる。この状態を近藤氏は「センス残高が減っている」と表した。

「事業へのコミットが上がりすぎると、事業理解が深まる一方『これはこうだ』という思い込みが強まりやすくなります。また、ディレクターの要求レベルがアウトプットクオリティの基準となるため、チャレンジをする機会も減っていく。すると、『センス残高』が減っていってしまう恐れがあるのです」

アウトプットの繰り返しと言語化の重要性

『センス残高』をどのように蓄積するか、つまり、デザイナーの自己研鑽をいかに継続させるかは、個々人の努力とは切っても切り離せない。ただ、組織としても、彼らの成長環境を用意する必要がある。

CAMではデザイナーが普段関わらないようなサービスに積極的に触れられる機会やインプットとアウトプットの習慣化など、いくつかの取り組みを行なっている。

ひとつは、社内イベントとしてデザインスキルを競い合う「デザイナーロワイアル」と「天下一品」だ。

いずれもテーマとなるサービスの課題を発見し、改善点を提案するプレゼン大会。デザイナーロワイアルではデザイナーが個人で参加し、天下一品ではデザイナーとディレクターがペアを組んで参加する。

デザイナーロワイアルでは、発表本番の1ヶ月前にお題となるサービスが発表。改善案をひとり3案制作し、1分のプレゼンを合計3セット行う。そのプレゼンを、サイバーエージェント執行役員クリエイティブ統括室の佐藤洋介氏が5点満点で採点し、3案の合計点が最も高いデザイナーが優勝となる。

「担当しているサービスを客観的に見るのは意外と難しい。自分が一番良く知っているはずのサービスに関するプレゼンの得点が最も低い、ということもあります。

実際、参加したデザイナーからも『課題をこなすことを通して、自分の今の仕事にも改善すべきところが発見できた』『長い間自分が担当しているものは”知り尽くしている”というエゴが入り、フラットな目で見られていなかったことに気づいた』といった感想が挙がっています」

また、インプットとアウトプットの仕組み化にも力を入れている。たとえば、デザインイベントや、美術展示、ギャラリー、アート系イベントなどを巡る機会を定期的に設け、訪れた際のレポート作りまでをルール化している。

「デザイナーには、デザインやアートに対し先入観を持たず、オープンな姿勢で新しい発見と体験をしてほしい。それを通して、自身の感覚をアップデートし続ける必要があると感じています。

また、自分が捉えたものをどう説明したら他人に伝わるか、という言語化能力も欠かせません。その双方を磨いてもらう機会にしています。最近では、タイポグラフィの案件を担当しているデザイナーには、展覧会のロゴデザインについて考察してもらいました」

その他にも、日常的にデザイン組織の定例会議へ題材となるデザインに関する素材を持ち込み、ディスカッションを行うなども行われている。このように、日常的な場にごく自然にインプットの機会を持ち込むことを心がけているという。

「同じサービスに継続的に関わりながら、成長や継続的な学びを実感できる組織づくりを目指しています。事業を成長させるノウハウを溜めつつも、センス残高の貯金も忘れない。デザイナーとしてアップデートし続けられる環境を、整備し続けています」

事業貢献と数値達成を意識する文化を作る

これらの施策を通してデザイナーがどう成長し、どう事業に貢献したのか。それを評価するのも近藤氏の重要な役目のひとつだ。技術や設計、コミュニケーション、デザインツールといったスキル別に5から15程度の評価項目を設定し、デザイナー個々人が自己評価を下す。

そこに、考課者の評価を合わせ、今後伸ばしていくスキルと目標を設定。スキルレベルを細やかに可視化することで、今後の向かう先や可能性を提示している。

また、デザイナーとしての専門スキルだけでなく事業貢献の度合いも評価対象となる。売上、退会率、CVRなどの指標をディレクター等と共に追い、定量的な数値目標を立てる。デザイナー自身が数字を作れるというマインドを組織に浸透させているという。

「自分の成長が事業やサービスの成長であり、サービスの成長に貢献した分はデザイナー自信に評価として還元される。成長と評価をつなげるのがマネジャーの仕事です。この文化が根付くと、自然とデザイナーからの成果に対するアピールも活発化します」

どの指標がどれくらい変わったのか、最初はうまく伝えられなかったのが、今では『アピールしないと』という風潮へと変わりつつあるという。

「もちろん、表面的なアピールだけでは意味はありませんが、自身がどう事業に貢献しているかを定量的に説明できることはとても大切です。事業貢献への姿勢と数値的達成をつたえられる文化作りにも寄与しています」

最後に近藤氏は、本トークショーのタイトルともなっている「自走するデザイン組織」についてこのようにまとめ、場をしめた。

「デザイン組織とは、デザインが生まれるコミュニケーションの場のこと。そして、自走するデザイン組織とは、デザイナー1人ひとりが自分で動き続けることで全体が成長していける組織のことです。

そのためには、先ほどお話したようなチームの文化、デザイナー同士の競争力をどのように作るか、デザイナーが自身をどうブランディングしていけるかなども重要となります。

デザイン組織において、何が正解かはまだまだ分かりません。私自身、これからも試行錯誤とセンス貯金を続けながら、自走するデザイン組織の在り方を日々メンバーたちと模索していきたいと思います」

[文]藤坂鹿