デザイン読書補講 14コマ目『自分の〈ことば〉をつくる あなたにしか語れないことを表現する技術』
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デザイン読書補講 14コマ目『自分の〈ことば〉をつくる あなたにしか語れないことを表現する技術』

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こんにちはこんばんは、吉竹です。

この『デザイン読書補講』は「デザインを学び始めた人(主に学生)の世界を少しでもひろげられるような書籍をおすすめする」をコンセプトに連載しています。

わたしの自己紹介や、この連載が生まれた経緯は1コマ目『UX・情報設計から学ぶ計画づくりの道しるべ』で書いていますので「どういう人が書いているんだろう?」と気になった方は合わせて読んでみてください。

今日の1冊

デザイン読書補講14コマ目にご紹介するのは、細川英雄『自分の〈ことば〉をつくる あなたにしか語れないことを表現する技術』(ディスカヴァー携書)です。

この本、タイトルだけ見たときは「プレゼンテーションやレポート向けのハウツー本なのかな」と思ったのですが、実際に読んでみると「自分のテーマをどう見つけるか?」について語られている良書でした。

おそらく想定読者は学校でレポートを書いたり会社で企画書を考えるような人なのですが、本書はデザインを学んでいる方……なかでも学生にぜひ読んでほしいと思わせてくれる、ひろくクリエイティブについて考えを深めてくれる内容となっています。

学年や年齢を限定せずに推奨できる本ですが、特にわたしが担当している2年生には有用でしょう。というのも、この学年は4年制であれば基礎課程をひととおり終え、より専門性の高い課題や演習に取り組みはじめる時期だからです。加えて近い将来には就職活動や卒業制作・論文も視野に入り始めます。そういう意味で本書で書かれている「自分の言葉でテーマを見つけ出し、表現する」方法を知り、学ぶことは良い経験につながると考えられます。

また、平易で読みやすい語り口とわかりやすい組み立ても好印象です。本書を選んだ理由のひとつには、この読みやすさ・理解しやすさがあります。初学者が「考える」ための入り口として読むのに適している一冊といってよいでしょう。

本書の章立ては

  • 第1章 自分のテーマを発見する

  • 第2章 自分のテーマを表現する

  • 第3章 自分のテーマで対話する

となっており、一貫して「自分のテーマ」を主軸に語られています。ここでは内容全体に言及するのは避け、「テーマとデザイン」「言葉とデザイン」といったトピックを中心に書いていきたいと思います。

テーマとデザイン

すべてがそうではないけれど、デザインの過程において「言葉によって語ること」が重要となるシーンは多く存在します。製品が生まれる過程ではそれはコンセプトと呼ばれ、関係者にとって指針となります。

例えばSONYのPlayStaion 5には「五次元」と呼ばれるデザインコンセプトが存在し、しかもそこから「異次元の宇宙からやってきたエネルギー体」という、一見すると突拍子もないテーマが設定されています。ですがこのテーマがしっかりとPS5のデザインに一貫性をもたらしているのは製品群を見れば納得できるはずです。

まずPS5のすべてのハードウェアにおいて「これまでのソリッドな塊から脱却し、物質を超えた先を形作る」というテーマを設定。そこから「異次元の宇宙から地球に降り立った、五次元の無限の可能性を持つ強大なエネルギー体が、人と触れ合うために自ら形作ろうとしている」というデザインの核となるストーリーを生み出しました。本体、コントローラー、ペリフェラル(周辺機器)はすべて同じ宇宙で生まれ、それらの機器は人とインタラクトするために適した造形になっていくというイメージで、ハードウェア全体を通じて生命感を感じられるデザインを目指しました。

https://www.sony.com/ja/SonyInfo/design/stories/PS5/より

あるいはアイデアがプロジェクトとして実現される過程においては、プレゼンテーションを通じて考え出した言葉を語ることで、関係者から理解と承認を得るプロセスが発生します。

また、ときにテーマは自分の中からではなく、誰かの中から引き出すことも求められます。クライアントワークであれば基本的には相手発の相談になりますから、向こうに明確なテーマが存在しなければプロジェクトに求められる諸要素の見当は難しくなります。輪郭があいまいなままプロジェクトが進んだ結果、途中段階で「なんか違う」とフィードバックが返ってくるも、その「なんか」を探るのに手間取った経験をした人は少なくないはずです。

PS5に限らず、デザインされ世の中に出たものに共通しているのは「なんとなくデザインされていない」点でしょう。なぜPS5はこのようなデザインなのですか?と問われたSONYのデザイナーさんが口ごもってうまく答えられない姿を見た日には、PS5に対する信頼や期待は湧き上がってきません。もちろん、ふだんの生活で私たちは「この商品のテーマは……」とプレゼンされながら購入を検討するわけではありません。しかし、デザインされたものから受け取る印象や体験をとおして、少なからずそれが発するテーマ性に触れているはずです。

テーマやコンセプトといったキーフレーズを策定するのは、なにもカッコつけのためではありません。特にスケジュールが中長期に渡ったり関係者が多いプロジェクトでは意思決定にブレが出るシーンも少なくありません。そんなとき「自分たちが達成したい目的ってなんだっけ?」と立ち戻るきっかけをテーマは与えてくれます。もちろん、ときには非言語によるテーマが策定されるときもありますが、それでも出発点は「言葉による思考」であるのは注目すべき点でしょう。

ところで、こういった話はなにも企業の中だけで起こっているわけではなく、学生であるみなさんにも馴染みのあるシチュエーションとなっています。課題制作の過程でどんなデザインを生み出すか、どのようにプレゼンテーションするか、そこに規模の大小はあれど取り組み自体に大きな差異はありません。

そうはいっても講義で出される課題はあらかじめテーマが決まっているから、考える余地なんてないんじゃ……と思うかもしれませんが、本書はそうした思惑に対して「トピックとテーマ」に分解して解説しています。

トピックとは、出来事や事柄の話題のことであり、テーマとは、その課題を検討するための主題です。(中略)たとえば、大学や専門学校、企業等で、あらかじめ与えられるものは、トピックだということになります。(p.102)

そう考えると、同じ課題に取り組んだ制作物でも「その人らしさ」が感じ取れるもの・感じ取れないものがあるような気がしないでしょうか。あるいは国内外のデザインアワードの受賞作を見ると、与えられたトピックに対して幅広いテーマの作品が応募されている場面に出くわします。例えば2022年のコクヨデザインアワードは『UNLEARNING』がテーマでしたが、各々が独自の解釈をしたうえでデザインしている様子が伺えます。

好きからはじまるテーマの発見

ではそもそも、どうしたらテーマを見つけられるのか?本書では以下の組み立てが述べられています。

  • 自分の「好き」や興味関心

  • 問題関心の発生

  • 問題意識への変容

  • 自分のテーマの発見

根幹をなすのは、やはり1つ目の『「好き」や興味関心』でしょう。表現活動においてはスタート地点として存在していたり、あるいは『問題関心の発生』からスタートしたときには、無意識化での影響としてあらわれたりもします(興味のある領域が抱える問題にふと気がつく、という現象を経験した人もいるはず)。逆に言えば、テーマを発見する行為は自分の好きなことや興味関心について改めて自覚的になれる行為とも捉えられそうです。

デザインを学んでいる学生にとって「自分のテーマ」が色濃く反映されるのは、やはり集大成である卒業制作・論文だと思いますが、さまざまな学校の卒業制作展に足を運ぶと不思議と「自分のものにしている」作品がなんとなくわかってきます。それはなにも技術力の有無だけで判断されるわけではなく、表現された制作物とそこから伝わってくるテーマ性の調和によってもたらされているような気がします。

本書中では『〈私〉をくぐらせる』という言い回しが使われていますが、ただなんとなく作っただけではないことが伝わってくるのは、先述の『「好き」や興味関心』が原動力となっているからなのかもしれません。

一方で「好きだけで終わらせない」意思も本書の組み立てから感じ取れます。好きという個人的な感情から問題意識への変容と表現の過程で獲得されるのは社会性……他者とのコミュニケーションであり、そこにはデザインを見出すことができます。

自分の体験と感覚・感情にもとづきながら、自分自身に「なぜ?」という問いを発し、相手に対して自分の「考えていること」をていねいに伝えようとすることによってはじめて、ともに共有するための論理が成立します。それは、はじめの「なぜ?」という問いに対して、自分自身がどのように答えるかという課題でもあるでしょう。(p.78)

自分の内に向けて出た言葉をダイレクトに外部に表出させるのと、デザインという手順をとおって表出させるのとでは意味合いが変わってきます。いかに自己と他者の存在を自覚化できるか、「自分のため」を超えて「誰かのため」に到達できるかが、デザインを学ぶうえでは重要なのかもしれません。

もちろん、それは自分の生活から「純粋な感情によって動かされた制作を排除しなければならない」という話ではありません。むしろデザインから少し離れて、自分自身と向き合いながらつくる行為を楽しむ時間を確保できたほうが健全なのかもしれません。もしデザインの初期衝動が「つくるって楽しい!」というシンプルな感情によって突き動かされていたものであれば、それは大切に自分の中に持ち続けてほしいなと願っています。

さて、ついデザインの文脈に絡めた話をしてしまいましたが、本書はあくまで「自分の〈ことば〉をつくる」ための手助けをしてくれるもの。そこで語られる内容は自身の存在や人生について考える……つまりテーマを見出すことへと発展します。

自分の生きるテーマを見出すというのは、ただ好きなこと、興味・関心のあることを発見するということにとどまりません。
その興味・関心のありかがどこにあるのかを考えることによって、自分がどう生きるかということの方向性を見出すということなのです。(p.177)

考えることで言葉が生まれ、言葉が生まれることで、またあたらしい考えに至る。それは人間にとって不変の営みとも言えます。学校での生活はわずか数年ですが、デザインする過程でみなさんが獲得した言葉が自身のテーマを探す一助になれたら幸いです。

それでは今日の読書補講はこのあたりでおしまいにしたいと思います。どうもありがとうございました。

[文]吉竹遼
フェンリル株式会社にてスマートフォンアプリの企画・UIデザインに従事後、STANDARDへ参画。UIデザインを中心に、新規事業の立ち上げ・既存事業の改善などを支援。2018年に よりデザイン として独立後、THE GUILDにパートナーとして参画。近著に『はじめてのUIデザイン 改訂版』(共著)など。東洋美術学校 非常勤講師。


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デザインの可能性を探究するメディア『designing』のnoteです。事業に寄与するデザインから、クラフト・クリエイティブ、デザイン思想・倫理、広義にデザインと捉えられる活動まで。デザインの多様な側面を深化・探索しながら、その可能性をともに拓いていきます。