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私的な“熱”こそが、創造性の名のもと才能をつなぐ——Featured Projects始動

designing

「クラシカルデザイナーは、デザインシンキングを軽視して認めない傾向がある」

かつて、「Design in Tech Report(現・Resilience Tech Report)」の中でジョン・マエダは、ナターシャ・ジェンの言葉を引用し、デザインの分断を指摘した。

クラフトとビジネス、フィジカルとデジタル、個の才能と組織による仕組み……デザイン・クリエイティブの領域では、様々なスタンスやバックグラウンドを持つ者が存在し、その差異は可能性を広げる大きな要因のひとつとなる。他方で、その差異が時に分断も生んでいるというのが、先述の指摘だ。

「Featured Projects」は、こうした隔たりや異なる価値観を、「創造性」の名のもとで交わらせようとする試みだ。領域を問わず“よいものづくり”に焦点を当て、卓越した創造性を発揮するあらゆる領域のクリエイターとともに道を拓こうとする。

その活動の皮切りに、2023年4月にはトークセッション・ クリエイターズマーケット・展示・ミートアップなどの機能を統合した、「デザインフェスティバル」の開催を発表した。なお、小誌を運営する事業部による新プロジェクトでもある。

主宰する後藤あゆみ、相樂園香は渋谷エリア一体を巻き込んで開催された、デザインフェスティバル「Design Scramble」を率いてきた面々でもある。両者が2022年のいま新たに描こうとする未来図を紐解こう。

「よいものづくり」に垣根は存在しない

創造性とはつかみ所のない概念だ。

『Creative Confidence(邦訳:クリエイティブ・マインドセット)』でも語られるように、誰もが持つものであると同時に、その発露はそう容易なことではない。創造性教育や創造性人材の育成などは行政レベルのトピックにもなっているが、時に拡大解釈されたり矮小化されたりもする。

Featured Projectsはそんな創造性という概念の曖昧さを許容しながら、ともに道を拓こうとする活動だ。

後藤「Featured Projectsは『よいものづくりは、明日を拓く』を、活動全体のテーマに掲げています。ここでいう“ものづくり”は、グラフィックデザインやプロダクトデザインなど長い古い歴史を持つものづくり、IT企業を中心とするサービス開発、デザインシンキング、プラネタリーグッドなものづくり……あらゆる形で発露される創造性を指します。そこに、一切の垣根はありません」

相樂「私たち二人の共通点は、ものをつくる人の才能や創造力に強く関心を持っていること。そして、創造的なエネルギーが満ち、人や作品との出会いが起こる『場』が、人間の創造力を開花させると信じていることです。

作ったものを多くの人の目に触れるようにすることで、新たな可能性を拓く出会いが生まれるかもしれない。一人では50%ぐらいまでしか発露できない創造性も、他の人や作品との出会いによって80%、90%まで引き出せるかもしれない。引き出された創造性によって、さらなる機会につながるかも知れない。Featured Projectsはそんな循環を作りたいと考えています」

左:相樂、右:後藤

Featured Projectsという名の通り、その活動の軸にあるのはあらゆる創造性をフィーチャーする(≒見出し、発露させる)こと。時には場を用意し、時には機会を提供し、時には直接的に支援する。あくまで手段は問わない。創造性の発露には、人によって最適な手段があるからだという。

後藤「才能ある方々が、それぞれの創造性を最大化できる形で評価されて欲しいんです。生み出したものを“体験してもらうこと”がよい人もいれば、“展示しじっくりとみてもらうこと”がよい人も、“言葉を尽くして伝えること”がよい人もいる。それぞれにマッチしたフィーチャーの仕方があるはずですから」

コラボレーションと場に熱意を持つ理由

Featured Projectsは主宰する二人にとって、満を持してリリースする活動と言っても過言ではない。というのも、このプロジェクトは二人の「創造性」と「場」に対する内発的動機が原動力となり動き出したといっても過言ではないからだ。

相樂が所属するTakramのコンテクストデザイナー・渡邉康太郎は、「場の創造性を高めていく専門家」と彼女を紹介する。「その場にしか起こらない、創造的な瞬間を立ち上げる」ことに強い興味があり、キャリアを通じて追求し続けているのではないかと。

かつて相樂は、FabCafe Tokyoのディレクター・デザイナーとして、年間数百本も開催されるイベントの企画運営に携わってきた。レーザーカッターが空間の中心に配置され、モニターに加工の様子がリアルタイムで流れる環境で、場によって創造性が高まっていく風景を目に焼き付けてきたのだ。

相樂「レーザーカッターを使っている人に、『なにを作ってるんですか?』と見ている人が声をかけることで、異なる領域の人たちの偶発的な出会いやコラボレーションが生まれていました。『イベントやろうよ』と声をかけて集まったりしなくても、ものづくりをしている風景があれば、イベントのような空間が自然に立ち上がる。そんな風景を毎日見ていたことが、場の力や魅力を感じるきっかけだったと思います」

相樂 園香/Featured Projects共同主宰。株式会社ロフトワークにてFabCafeのアートディレクション・企画運営に携わったのち、フリーランスを経て2018年に株式会社メルカリに入社。研究開発組織「R4D」を経て、全社のブランディングを担当。公私ともにクリエイティブでオープンな場の実現・発展に取り組む。2021年からTakramに参加。

ものづくりを共有する場があれば、人々は自然とスキルや創造性を発露し、掛け合わせられる。そんな場によって生まれるものを見てみたいという好奇心が、相樂の根底には流れている。

そんな好奇心で駆動する一方、実務においては裏方としてものづくりをすることが多いという相樂は、自身を「職人タイプ」だと説明する。

対する後藤は、とにかくこれをやりたいという衝動で駆動する「情熱タイプ」と自身を形容する。クリエイターの価値を高め、活躍の機会を増やすことを行動の指針に据える後藤は、クリエイターがより多くの人の目に触れるための場作りや発信などに使命感を持ち、長年取り組んで来た。

後藤「よいものづくりができても、機会に恵まれない人たちに、少しでも機会を届けられないかと活動を続けてきました。一昔前に比べると個人が発信をしやすくなりましたが、それが得意な人ばかりではありません。また、一人で活動するより、プロデューサーやディレクターなどがいることで輝ける人もいる。そんな才能を後押ししたいという気持ちが、私の原動力なんです」

創造性を発露する「祭典」の再定義と必要性

他方で、長年「創造性」と「場」に向き合ってきた両者は、創造性が発露される場が、減退傾向にあることに危機感を覚えていた。

フェスティバル、コレクション、トリエンナーレ、カンファレンス、見本市……マクロな視点で見れば、世界各地ではさまざまなクリエイティブ領域の「祭典」が今も開催されている。

だがミクロに見てみると、日本ではTOKYO DESIGN WEEKは2016年で開催中止。1997年から続いた文化庁メディア芸術祭も今年で幕を閉じることが決定した。さらには、コロナ禍の煽りを受けて、ここ数年でさまざまな祭典が中止や規模縮小を余儀なくされている。

二人も、かつてその苦汁をなめている。2018年に第一回を開催した「Design Scramble」は2019年10月の二回目が台風で延期に。繰り越した2020年3月はコロナ禍で中止となった。

「Featured Projectsでは、イベントを取り巻く厳しい情勢によって失われた、人や作品との出会いを取り戻したい」と両者は語気を強める。

後藤あゆみ/Featured Projects共同主宰。1990年大分県別府市生まれ。京都の美大を卒業後は、クリエイティブ制作に特化したスタートアップで、デザイナー、人事、広報、マーケティング、新規事業などを経験した後、独立。デザイン組織のPR / ブランディングを専門として活動する。DeNA在籍時に、渋谷デザインフェスティバル「Design Scramble」を主宰。

後藤「コロナ禍以後、オンラインイベントの企画も数多く経験しましたが、やはりリアルの場とは勝手もメリット/デメリットも異なる。人や作品と新しく出会う機会という意味では、かなりの機会が失われたと私は感じています。ですが、『その場所、その瞬間に集まっているからこそ得られる価値』は間違いなく存在する。そこに、改めてチャレンジしたいんです」

ゆえに、4月に開催するデザインフェスティバルは、実空間にこだわった。

様々な場所を検討した上で、コクヨが2021年2月というコロナ禍真っ只中にオープンした、オフィス『THE CAMPUS』を会場に選定。築40年の自社ビルをリノベーションし、低層部をパブリックスペースとして街に開いた、場の意味を現代に問い直すかのような会場だ。

コクヨ東京品川オフィス「THE CAMPUS」(写真提供:コクヨ)

プログラムも単なるビジネスイベントのようなものではなく、「トークセッション」「マーケット」「展示」「ワークショップ」「ミートアップ」など複合的に設計。これは「それぞれの創造性を最大化できる形で評価されて欲しい」という先ほどの言葉を反映したものでもある。

しかし、Featured Projectsはコロナ禍で減退した文化復興や現代における場の価値の再考といった、「何らかの課題解決や場作り自体が目的ではない」と後藤は強調する。

あくまで「あらゆる創造性をフィーチャーすること」や「ものづくりで明日を拓くこと」に軸足がある。その理由を「つくる力は、生きていく力だから」と相樂。

相樂「『つくれると思ってもいなかったもの』が作れてしまったとき、その人は自分が本来持っている能力に気づくと思うんです。『自分はここまでやれるんだ』と感じることの繰り返しが、その人の生活をつくり、人生を作っていくのではないでしょうか」

他方で、創造性を発揮し続けるのはそう簡単なことではない。長年クリエイター支援をしてきた後藤は、あくまで「スポットライトが当たる人には、それだけの理由がある」と語る。

後藤「活躍している方、よいものづくりをしている方とお話をすると、大体の場合本当にたくさんの努力をされてきている。結局、私はよいものをつくるために努力できる人が好きなんです。だからこそ、フィーチャーすることを通しその努力に敬意を表したいと考えています」

「よいものづくり」と「明日を拓く」という言葉の真意

こうした想いのもとデザインフェスティバルのテーマには『よいものづくりは、明日を拓く』という言葉を掲げた。先述のとおり、この言葉はFeatured Projects全体のテーマでもある。

初回ゆえに全体テーマを反映させたという意図もあるだろうが、相樂は「よいものづくりとは何か」と現代に問いかける重要性を強調した。

相樂「いまの時代、『楽しい』だけのものづくりは続けられないですよね。社会や環境に負債を残すこともありますし、どんな資源や素材を使うかといった配慮や、つくったものをどう循環させるかは、ものを生み出すあらゆる人が考えるべき責任と言える。だからこそ、“よいものづくりとは何か”を、ものづくりに携わる人たちと一緒に考えたいと思いました」

ただ、そうした「問い」について考えを深め、責任意識を強く持つべきと啓蒙する——ような場を望むわけでもない。「明日を拓く」という言葉が続くように、場に前向きなエネルギーが満ちることとの両輪を常に意識したいという。

相樂「他方で、私は『ただ楽しいから』という純粋な動機から生まれるものづくりも肯定したいんです。私自身が、ものづくりを純粋に楽しんでいる一人でもあります。だから『こうすべき』と押しつけるのではなく、みんなで楽しみながらヒントを探り、明日のものづくりがほんの少しだけでも良くなるような視点が得られる。そんな場を作りたいと考えています」

本来であれば、ここで具体のプログラムなどを紹介したいところだが、詳細はまだ調整を重ねている最中。2023年2月頃の公開を予定しているという。

というのも、今回のデザインフェスティバルでは、プログラムをスポンサーとともに作り上げる想定をしているから。スポンサーとの関係性という観点でも従来のそれとは異なる形を模索している。

後藤「私たちにとって、スポンサーは『お金をいただき露出面を提供するクライアント』ではなく、『テーマに共感し、ともに創造性を拓くために伴走いただくパートナー』だと捉えています。そのために、プログラムの一部はスポンサー企業とともに設計する想定にしています。

具体的には、『参加者と共有すべきアジェンダ』を対話を通して設定し、トークセッションを一緒に設計していくようなかたちですね。たとえば、素材レベルから環境問題に取り組んでいるメーカーとともに『地球によいものづくり』を考えたり、クリエイター支援を長年手掛ける団体とともに『創造性に投資する意味』を考えたり……。そうした丁寧な対話によるアジェンダ設計にじっくりと時間をかけたいので、プログラムはまだ定めきっていないんです」

相樂「イベントというとどうしても打ち上げ花火的な場に捉えられてしまいますが、より長期的な関係性を築いていけたらと思っています。ともにアジェンダを考え、それを対外的に打ち出し、会期前から開催後まで様々な形で発信していく。記事などで形に残るものにしていくこともできます。私たちは創造性という捉えどころのなさそうな概念を扱うからこそ、長くじっくりと活動をともにできる方とご一緒したいという意図もあります」

創造性という言葉のもと、あらゆるものづくりを横断してつなぎ、エンパワーメントしようとするFeatured Projects。業界全体への貢献や優れた才能の発掘のような文脈にも接続しうる活動だが、その土台にあるのは、あくまで「創造性」に対するごく個人的な熱量だ。

ただ、細分化が進み分断が進むあらゆる専門領域を編み直すのは、そうした「熱」こそが必要なのかもしれない。打算的な損得勘定ではなく、つい動き出してしまう熱量があるからこそ、尻込みしてしまいそうな難題にも向かっていけるのだ。

[取材・執筆]石田哲大[編集 ]小池真幸[撮影]今井駿介

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