見出し画像

Shopifyのプロダクトデザイナーが重視する、デザインを適切に”伝える”技術

本記事はShopifyのSenior Product Designer・Kazden Cattapan氏が、Shopify UXに寄稿した記事『Design communication is a critical skill』を公式に許可をいただき翻訳したものです。

デザイナーは、ステークホルダーにデザインについて説明するとき、ワイヤーフレームやフローダイアグラム、モックアップなどの便利なツールを駆使する。視覚的なアーティファクト(中間成果物)を使って、コミュニケーションする特殊な能力を持っている。それはごく日常的なことだ。そして時にデザイナーは中間成果物を完璧に仕上げることに夢中になりやすい。

中間成果物は目的を達成するための手段であり、問題を解決するプロセスを表すものだ。顧客はFigmaのワイヤーフレームの質ではなく、出来上がったプロダクトの質で、良し悪しを判断する。プロダクトとして顧客の元に届くまで、デザインの価値はわからない。

だからこそ、ステークホルダーにデザインの意図を伝える力が、デザイナーにとって最も重要なスキルの一つになる。プロセスのなかで「なぜこの意思決定が問題解決のために最適なのか?」を理解してもらう必要があるからだ。そうやってステークホルダーとの信頼関係を築き、中間成果物を実際に形にするのである。

Shopifyで働くなかで、私はステークホルダーとのコミュニケーションを磨き続けてきた。本記事は、Tom Greeverの著書『Articulating Design Decisions』から学んだポイントと、現場での学びからインスピレーションを得て、書いたものだ。コミュニケーションで悩んだことのある全てのデザイナーに対して、少しでも知識を提供できるものになればと思っている。

デザイナーに求められるコミュニケーションの基礎

問題を話し合い、解決策を考え、アイデアを共有するためにはコミュニケーションが欠かせない。効果的なコミュニケーションによって、デザイナーはステークホルダーやプロダクトマネージャー、エンジニアなど他の領域の人たちと協力し、アイデアを実現できる。

何が効果的なコミュニケーションを構成するかは、チームメンバーの力関係や状況によって異なる部分もある。しかし、以下4つの基礎はどのような場合にもあてはまっていたように思う。

1.プロセスよりもプロダクト

何よりも、結論に至るまでのプロセスではなく、プロダクトに焦点を当ててコミュニケーションしよう。多くのステークホルダーが気にしているのは、手法や中間成果物ではない。デザイナーの意思決定がプロダクトにどのような影響を与えているのかを知りたいのだ。

もちろん、デザイナーは自分の仕事について「どのように結論に至ったか」というプロセスを説明できなければいけない。しかしそれはメインで説明すべきものではない。

2.課題を説明する

何かを共有するときは課題から説明しよう。ステークホルダーが自分と同じくらい背景や文脈を理解していると考えてはいけない。課題への解決策を提案しているとき、その課題とあなたの距離は近い状態だ。だからこそ、解決策を提示するコミュニケーションにおいては、責任を持って、その場にいる全員が共通理解を持てるよう努めよう。

3.課題と解決策を結びつける

どのように課題と解決策が直接的に結びつくのかを説明しなければいけない。その関係を効果的に説明するには、まずは自分がどのように意思決定したのかを理解しなければならない。

意思決定の数々を記録するために最も良い方法はそれらを書き留めることだ。無意識のうちに考えていたことも含め、思考の履歴を具体的な形で残しておこう。

また、課題と解決策を結びつけるエクササイズとして「デザインを言葉だけで説明する」のを勧めたい。デザインに取りかかる前に行うのがベストだが、意思決定の流れを記録するために、後から行ってもいい。

エクササイズはとてもシンプル。課題とそれに対する解決策の候補を書き出すだけ。以下がその一例だ。

画像1

上記の図は、あくまで「課題に対する思考を可視化するツールである」と覚えておいてほしい。あなたのゴールはデザインの意図をステークホルダーに伝えること。解決策を言葉に落とし込むことでより効果的に伝える準備ができるだろう。

どのような方法を使うとしても、最終的に目指すべきなのは思考のプロセスをリアルかつ共有可能なものにすることだ。

おまけ:
このエクササイズをチームで行えば、プロダクトの完成度が低い状態から協力したり、アイデアを組み合わせたりできるだろう。そうしたコラボレーションにより、解決策に対する共通の認識が生まれる。実用性や実現性に欠けるワイヤーフレームを描き、結果的に無駄にするのを防ぐことができるのだ。

4.なぜその解決策が重要であるかを説明する

決断の根拠を説明し、問題点に結びつけるだけでは十分ではない。なぜそれが重要なのかを説明できなければ意味がない。ステークホルダーにデザイナーが提案していることの「価値」を理解してもらうには、その「理由」を理解してもらう必要があるのだ。

そのためには、解決策がユーザーにとってどのような影響を与えるかを言語化するとよい。意思決定をする度に「これはユーザーにどのような影響を与えるのか?」と自問してみよう。

画像7

エクササイズの目的は、思考の軌跡を具体的な形にし、履歴を残すこと。検討した他のデザインについても上記のエクササイズを行えるのが理想だ。そうすればなぜ最終的に選んだ解決策が、他のものより優れているかを説明できる。これらの作業を事前に行なっていれば、解決策に対するステークホルダーの懸念に対しても、自信を持って意思決定を自らの決断を自信を持って守りきれるだろう。

1から4の項目は、誰にデザインを説明するかにかかわらず、基礎になるはずだ。もちろん、ステークホルダーの状況やプロジェクトの特性によって、共有する方法や内容には違いがあるかもしれないが、大抵のケースに当てはまると思う。

これらを念頭に置いて、次にステークホルダーのランドスケープ(構成要素)について考えてみよう。

ステークホルダーの“ランドスケープ”を理解する

プロジェクトには、さまざまなステークホルダーが関わり、影響を与える。そして彼らの優先事項も多岐に渡る。

デザインを共有するときは、ステークホルダーにとっての優先事項を理解し、共感を得られるよう最善を尽くすべきである。プロジェクトによってステークホルダーは異なるが、大きく3つのグループに分けて考えてみよう。

1.直属のチーム
2.外部のステークホルダー
3.リーダー、エグゼクティブ

画像3

図訳:中心から、自分自身、直属のチーム、外部のステークホルダー、リーダーやエグゼクティブ

ステークホルダーのグループを同心円状に捉えてみよう。あなたがコミュニケーションする頻度や、チームごとの優先事項についてビジュアル的にイメージしやすくなる。

あなたと相手との関係によっては「相手が何を重要視しているのか」を理解するのが難しいこともある。しかしそれらを見極め、できる限り理解しようと努めよう。

1.直属のチーム

直属のチームは、毎日関わりのある人々だ。ディベロッパーやプロダクトマネージャー、コンテンツデザイナー、その他のデザイナー、他にもさまざまな職種のメンバーが含まれる。

一般的にあなたのチームはプロジェクトにおいて最も頼れる存在になる。毎日のようにコラボレーションする機会があるからだ。コラボレーションや解決策の説明、価値の伝達を通して、共通言語を築いていく時間を積み重ねるほど、より価値を生み出せるようになるだろう。

こうしたコラボレーションにおいては、直属のチームメイトの優先順位を理解することが重要だ。職種による優先度の違いを意識するために、私は以下のようなチートシートを利用している。

・ディベロッパー

ディベロッパーの考え方や視点に常に寄り添うことが重要だ。ディベロッパーは、バックログに積まれたバグ修正や機能拡張などのタスクに追われながら、ロードマップに描かれた新機能を開発しなければいけない。

早い段階から、ディベロッパーとは頻繁にコミュニケーションを図り、解決策ごとに必要になる技術的な労力を理解しよう。そうすれば、生み出す価値に対して、過度に複雑なソリューションを選ばずに済む。

ディベロッパーへデザインの意図を伝えるときは、ユーザーの課題、解決策が提供する価値、その価値が努力に見合うのかを理解してもらうよう心がけよう。

画像4

・プロダクトマネージャー

プロダクトマネージャーはデザイナーと同様、課題領域や顧客について深い理解がある。プロジェクトが、プロダクトの目標に沿っていることを確認し、チームが取り組むべきスコープを管理する。プロジェクトを軌道に乗せ、予算を守り、期限内に納品されるようサポートをしている。

プロダクトマネージャーにデザインの意図を伝えるときは、あなたがデザインプロセスのどの段階にあるかを理解してもらおう。懸念事項やプロジェクトスコープの変更については、できるだけ早くアラートを出すといいだろう。

画像5

・コンテンツデザイナー

コンテンツデザイナーはプロダクトの情報アーキテクチャ、その論理性を担保する役割だ。ユーザーが必要なタスクを行えるよう、優先すべき情報やタイミングを決め、ユーザーのメンタルモデルに沿って情報を整理する。

また、チームの共通言語を育て、抽象的なコンセプトにまつわる共通の理解を耕す。プロダクトのコンセプトを一貫性のある形でユーザーに伝え、一貫性のある体験を届ける。

早い段階からコンテンツデザイナーとコミュニケーションを図り、課題領域やユーザーのメンタルモデルについて、共通の理解を築くことが重要だ。そうすれば、チームをまたいで、プロダクトにおいて適切な情報アーキテクチャ、適切な階層を作っていくことができる。

コンテンツデザイナーにデザインの意図を伝えるときは、ユーザーリサーチから得られた洞察、既存のコンテンツモデルと意思決定の整合性、プロダクトの他エリアと解決策の整合性、デザインによるユーザーの認知負荷の軽減などを理解してもらうことを重視する。

画像6

2.外部のステークホルダー

外部のステークホルダーは普段の意思決定にあまり関与していない。しかし、プロダクトの進捗を支援したり、時に邪魔したりすることもある。

例えば、同じようなロードマップを持つ他のプロジェクトチーム、ビジネス上のステークホルダー、あなたのデザインを利用する社内のクライアントなど。ステークホルダーの種類によって、彼らが重要視するものも異なる。

いずれにしても外部のステークホルダーから支持を得ることは価値がある。彼らがリーダーやエグゼクティブから信頼されていれば、あなたの解決策の実現を後押ししていくれるかもしれないからだ。

プロジェクトの初期段階で、彼らとの関係がどのようになるかを予測するのは難しい。ほとんどの場合、どの関係者を巻き込むべきかは、プロジェクトが進行する間にわかってくるものだ。デザインの意図を相手に伝えるときは、関係構築を大切にし、先ほど述べたような基礎を守ろう。時間が経つにつれ、外部のステークホルダーの優先順位も理解できるようになり、いつ彼らを巻き込むべきか、何に重点を置くべきかを理解できるようになるだろう。

3.リーダーやエグゼクティブ

最後に、リーダーやエグゼクティブについて話そう。プロジェクトに影響を与え、承認する立場の人々だ。

リーダーやエグゼクティブと何度も会う機会を持ち、優先順位を理解するのは難しい。リーダー的な役割を担う人は、複数のチームを兼任していて、スケジュールもぎっしり詰まっている。絶えずコンテクストを切り替えてい仕事をしているからこそ、プロジェクトの詳細に割く精神的な余裕はないという事実を理解しなければならない。

リーダーやエグゼクティブにプレゼンテーションするときは、できるだけ早く、解決策を提案し、フィードバックを引き出す必要がある。最も重要な領域にフォーカスし、デザインの意図を伝えるよう工夫しよう。信頼を得るために、あなたが課題について徹底的に考えたこと、製品や組織のビジョンに沿った意思決定をしたことを示そう。

画像7

「デザイナーに求められるコミュニケーションの基礎」では、誰にデザインワークを共有するときも、念頭に置くべき基本原則だ。これらの土台をベースに、他のコミュニケーションの原則を加え、リストをカスタマイズすることもできるだろう。

「ステークホルダーのランドスケープを理解する」では、あなたのプロジェクトにまつわるステークホルダーを同心円上に整理する際に役立つだろう。また、デザイナー以外の職種のメンバーにデザインワークを共有する際に考慮すべきことを示している。

[文・翻訳]フジカワ悠[編集]向晴香

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!