デザイン読書補講 4コマ目『ポール・ランド、デザインの授業』
見出し画像

デザイン読書補講 4コマ目『ポール・ランド、デザインの授業』

こんにちはこんばんは、吉竹です。

この『デザイン読書補講』は「デザインを学び始めた人(主に学生)の世界を少しでもひろげられるような書籍をおすすめする」をコンセプトに連載しています。

わたしの自己紹介や、この連載が生まれた経緯は1コマ目『UX・情報設計から学ぶ計画づくりの道しるべ』で書いていますので「どういう人が書いているんだろう?」と気になった方は合わせて読んでみてください。

今日の1冊

デザイン読書補講 4コマ目にご紹介するのは、マイケル・クローガー『ポール・ランド、デザインの授業』(和田美樹訳, ビー・エヌ・エヌ)です。

本書はPrinceton Architectural Pressから出版された『Conversations with Students』シリーズのうちの1冊が翻訳されたものです。このシリーズは「著名なデザイナーや建築家が大学でおこなった講義や、そこでの学生たちとの対話の記録」が100ページ前後に抜粋されているのが特徴です。他の『Conversations with Students』シリーズの何冊かは丸善出版から『建築家の講義』というタイトルで出版されていますので、興味がある方はそちらも合わせて読んでみてください。

今回、本書を取り上げたのは「卒業する学生たちへのはなむけに代えたい」という気持ちが自分の中にあったためです。実は2021年は、僕が講師として初めて受け持った期の学生たちが卒業した年でもあります。受け持った、なんて言ってますが関わったのは彼ら彼女らの4年間の学生生活のうちのほんの数ヶ月程度なんですけどね。ありがたいことに卒業制作集にもメッセージを寄せさせて頂きましたが、今回はやや私的な思い出話を交えつつ、卒業祝いに代えたテキストが書けたらと思っています。

さて、ポール・ランド氏と言えば20世紀を代表するグラフィックデザイナーと言っても差し支えないでしょう。特に企業のコーポレート・アイデンティティおよびロゴデザインでその名を知られてる方です。代表的なクライアントにIBMやABCテレビ、Appleの共同設立者の1人であるスティーブ・ジョブズが創立したNeXTなどがあります。IBMのポスターはグラフィックデザインを学んでいる方なら目にしたこともあるのではないでしょうか。

画像1

引用:paulrand.designより

ランド氏のウェブサイトでは手掛けた仕事やインタビュー集、記録動画に至るまで多くの資料が閲覧できるので、特にグラフィックデザインを学んでいる方は必見と言えるでしょう。

本書はランド氏が亡くなる前年の1995年、アリゾナ州立大学でおこなわれた講義および学生たちとのディスカッションの記録を中心に構成されています。面白いのがその切り取り方で、目次には『対話1・対話2』と書かれているのみ。おそらく本来あっただろう最初の会話なども飛ばされていて、『対話1』では編者であるマイケル・クローガー氏が

「先日の講義で勧められた本を2冊買ってきました」

と報告するシーンからはじまります。ある程度の前情報は『はじめに』で提示されているものの、この気持ちいいくらいの編集ははじめて読んだときとても新鮮でした。また『対話1、対話2』の合計ページ数は全体の半分ほどしかありません。ある瞬間を切り取った、まるで写真のような本。これで本になるんだ!これで本にしてもいいんだ!と衝撃を受けたのを覚えています。ですが、本が薄いからと言って中身も薄いんでしょ、なんて油断して読み始めちゃあいけません。ランド氏の言葉は切れ味鋭く読む者の心に突きつけられます。

例えば、クローガー氏の「学生にデザインを教えるにはどんな方法が最適ですか?」という問いに対しては

まずは、すべての用語をはっきり定義づけること。デザインとは何かを定義づけなくてはならない。君はデザインとは何であるか知ってるかい?デザインとは何だろう?自分のやっていることを理解させなければならないよ。(p.22)

と逆に問われる事態に。ここなんか、改めて読むと自分はゾッとします笑

こうしたテイストの言葉が続くのは、やはり本書が「書かれた言葉」ではなく「話された言葉」だからでしょう。いま私が書いているこのテキストもそうですが、文章というのは思い浮かべてから現れるまでに時間差があったり、書き直しも可能な媒体です。文法的に間違っていないか言い回しを調べたりしていると、はたしてこれはどこまで自分の言葉なのだろうかと、ときどき疑問も生じます。一方で話し言葉は「話せることしか話せない」。そして話せることというのは、常日頃自分が思考している言葉によってのみ構築されるものだと考えられます。こうした性質の違いによって、ランド氏の言葉はより生き生きと残されているように感じます。

デザインの定義と、恩師からの贈り物

本書を読み進めていくと、先ほどの「デザインの定義」についてランド氏と学生との対話が重ねられていく様子が描かれ、ほどなくして背表紙にも書かれている有名な言葉が登場します。

デザインは関係性である。デザインとは、形と中身の関係性である。(p.29)

デザインとは関係性である。なんて美しい言葉なんだろう。まるで数学の公式のようです。初めて目にしたとき、世界の見方が変わったのを鮮明に覚えています。

この一節が本書を取り上げた大きな理由です。ですが、この言葉をそのまま紹介したかったからではありません。

話を進めるにあたって、少しだけ自分の昔話をさせてください。

いまから10年前、大学の卒業式の日。あれはたしか、式も終わり所属ゼミの研究室で友人と一緒に先生を迎えたあとだったと思います。僕は図々しくも先生に「卒業祝いのはなむけに、何か良い言葉をください」とねだりました。そのときいただいた言葉は、

「デザインとは何か。この問いに対する答えを自分の中にたくさんストックしておきなさい。この先、いろんな人とこの話題について話す機会がやってくる。そのときどきで適切な受け答えができるように、ストックを持っておきなさい」

おおむね、このようなアドバイスだったと記憶しています。この言葉は僕の心に深く残りました。なぜでしょうね。お世話になった先生からプレゼントがもらえたという高揚感もあったでしょうし、学生時代はデザインをする……というより、手を動かして何かしらを作ること自体が楽しくて、こうした問いを持つ意識が薄かったのもあるかもしれません。

以来、1年に1つ、その年の振り返りも兼ねて「デザインとは何か」を考え、見つけた言葉をストックするように心がけています。そして1つ目に選んだのが、本書で出会った「デザインとは関係性である」だったのです。話が繋がった!

そうして今度は、この言葉をみなさんへ贈らせていただきます。デザインとは何か。この問いに対するいくつもの考えを、ぜひ自身の中にたくわえてみてほしいのです。

言葉は見つかりたがっている

誰かの言葉を借りたってかまいません。ご存知のとおり僕も最初はそうでしたし、今でも心から首肯した言葉に出会ったときにはお借りすることもあります。ただ、それでも自分で考えるクセを止めずに、自身の経験や思考から滲み出す言葉をどうにか捕まえてもらえたらと思ってしまうのです。

思うに、言葉というのは見つかりたがっているのです。あなたの言葉は、あなたに見つけられたがっている。いまは誰かの言葉を代用しやすい時代です。そんな中で、自分自身と対話しながら言葉を探す時間を作れるのは、ある種の豊かさと言えるのではないでしょうか。ことさらに言い回しを取り繕わなくても大丈夫。そんなの当たり前だよ、ふつうだよと言われるような言葉でも、みずからの経験を経て生まれたものは長く深く残ります。

学校を卒業してあたらしい社会生活が始まると、とかく短期的でわかりやすい答えを求められがちです。特に会社で働く場合は。それが100%ネガティブなものだとは思いませんが、かと言ってそれだけで思考が埋められるのは、はたしてどうなのかな、とも思います。答えのない問いをひとつでいいから持ち続けてもらえたら。そんな願いも込めて、今回は「デザインとは何か」にまつわる話を書かせて頂きました。

ぜひ本書も手に取って最後まで読んでみてください。ランド氏と学生たちの対話からは多くの発見を得られるはずです。自分も新装版の発売を機に久しぶりに読み直しましたが、この一文を読んで気持ちが新たになりました。

なるほど。でも、それはデザインの定義じゃない。手段を述べているだけだ。デザインとは何かに答えていない。(p.28)

いつかどこかで、みなさんが考えた「デザインとは何か」に触れられる日を楽しみにしています。

今日の読書補講はこのあたりでおしまいにしたいと思います。どうもありがとうございました。

[文]吉竹遼
フェンリル株式会社にてスマートフォンアプリの企画・UIデザインに従事後、STANDARDへ参画。UIデザインを中心に、新規事業の立ち上げ・既存事業の改善などを支援。2018年に よりデザイン として独立後、THE GUILDにパートナーとして参画。近著に『はじめてのUIデザイン 改訂版』(共著)など。東洋美術学校 非常勤講師。

最後までお読みいただきありがとうございます。designingへのご要望や取材依頼、リリースのご送付などは、以下のフォームをご利用ください。

designingは、デザインの可能性を探究するデザインビジネスマガジンです。事業に寄与するデザインから、クラフト・クリエイティブ、デザイン思想・倫理、広義にデザインと捉えられる活動まで。デザインの多様な側面を深化・探索しながら、その可能性をともに拓いていきます。