激動の映像業界。流れと直感に身を任せ、「いいものづくり」を追求する──EDP graphic works・加藤貴大
2022年に行われたNTTドコモの調査によれば、日本人のうち、およそ40%が1日1時間以上動画を視聴している。2018年の同調査では、1時間以上の動画視聴者割合は23%だったので、ほぼ倍増という形だ。
YouTube、SNS、デジタルサイネージなど、メディア環境が激変する映像業界。そんな中で、20年以上にわたり時代に即応した映像関連のクリエイティブを生み出し続けてきたのが、クリエイティブブティックEDP graphic worksだ。
率いるのは、加藤貴大、33歳。2018年に創業者よりバトンを引き継ぎ、2代目の代表を務めている。
加藤の代表就任後、同社はこれまで大半を占めていたテレビCMをはじめとする広告案件に加え、企業ブランディングやアート・エンタメ領域の映像制作へと領域を拡大。ギンザ・グラフィック・ギャラリーで行われた「石岡瑛子展」のオープニング映像や、ヨルシカのライブツアー「ヨルシカ LIVE TOUR 2021 盗作」におけるリリックビデオ、ISSEY MIYAKE の IM MENが手がける「FLAT」のブランディングビデオ、さらにはビズリーチ、マクアケやfreeeといったテック系スタートアップのブランディング動画やコンセプトムービーまで手がけてきた。
元をたどれば、モーショングラフィックデザイナーとしてそのキャリアを歩み始めた加藤。ある日突然、EDPの代表に就任したのは29歳の頃だったという。
それから5年あまり、加藤はいかにして激変する映像業界に対応しながら、経営と制作において成果を残してきたのだろうか? その背景には、業界に対する分析にとどまらない、徹底した「直感」起点の動き方があった。
(Sponsored by EDP graphic works)
「きっとなんとかなるだろう」──青天の霹靂だった社長就任
「社長って興味ある?」
2018年のある日の残業中。EDP graphic works(以下、EDP)の加藤は、当時の代表だった熊本直樹からこう問いかけられた。
いったいどういうことだろう?その真意はつかめない。けれども、加藤は直感的にこう答えた。「えっと……おもしろそうですね」。
そのやりとりからたった1週間後、加藤はEDPの代表取締役に就任していた。
加藤「驚きましたよ。入社した頃から熊本さんのチームに所属し、ずっと一緒に仕事をしてきたから、彼の温度感は理解しているつもりでした。けれども、まさか突然、自分が代表の役割を任されるなんて……。
ただ、僕も映像をつくるだけではなく、なにか違うことをしたいって、漠然と考えていた時期でもありました。きっと経営をしてみることは自分にとって貴重な経験になるんじゃないか。そう思い、代表をやってみようと決めたんです」
2001年の創業から17年。EDPの社員は当時、70人を数えていた。若干29歳の若者が率いていくには少し「ムチャ振り」とも言えるのではないか?
加藤「もちろん『どうなるんだろう……?』という不安はありました。けれども、不思議と、怖いという気持ちはなかった。直感的に流れに身を任せるタイプなので、『きっとなんとかなるだろう』と考えていたんです」
社長に就任すると、先代の熊本は経営にほぼノータッチで、「ほぼ僕のやり方に任せてくれた」と加藤。「クリエイターの勘で『渡してしまったものには余計な口を出さないほうがうまくいく』とわかっていたのかもしれません」。
それまで、EDPでは、TVCMなどのマスメディア向けの仕事を数多く手がけてきた。2010年にはヘルシンキのTV局ch.4 「Nelonen」で放送された「Urban Abstract」が、カンヌ国際広告祭(現:カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル)でゴールドを獲得。フィンランド最大のデザインコンテスト European Design Awards 、D&AD にもノミネートされるなど、さまざまな受賞歴もある実力派のクリエイティブブティックだ。
しかし、引き継いだ加藤は、そのレガシーをそのまま継承するのではなく、刷新しようと試みた。
加藤「実は、僕を含め、社員の中には『(激変する外部環境に置いていかれないために)EDPは変わらないといけない』という危機感がありました。
それにもかかわらず、なかなか変われていないという焦燥感があった。以前から会社としても『新しいことをしたい』という気持ちはあったのに、これまでの実績もあり、なかなか踏み出せないでくすぶっていたんです。
このままでは、変化する環境に耐えられない組織になってしまうかもしれない。これを機に一回変わってみようと、僕は会社を変化させていく方向へと舵を切りました」
法学部卒業後、CGの世界へ飛び込んだ
激変する映像業界に対する想いを熱く語る加藤だが、実は幼い頃から映像に興味があるわけではなかったという。
大学は、当時好きだったゲームの影響から法学部を選択。けれども、実際に六法全書を片手に勉強をしていくうちに、当初抱いていたイメージとの乖離を感じ、だんだんと興味を失っていったという。そんな加藤の心を奪ったのが、コンピュータグラフィックスだった。
加藤「僕が大学生だった2010年頃は、だんだんとCMなどでもCGが使われるようになってきた時代。そんな中、Perfumeがイメージキャラクターを務めていたキリン『氷結』のCMを見て、直感的に『CGかっこいいかも』と思ったんです。
不純な動機ですよね(笑)。けれども、その思いをきっかけに、大学を卒業後、本格的にCGを勉強しようと映像系の専門学校に入ったんです」
ひとくちにCGといっても、ゲームなどで使われる高性能な3DCGから簡易なCGアニメーションまで、さまざまな種類のものがある。中でも加藤を魅了したのが、文字やイラストなどグラフィックスに動きや音をつけるモーショングラフィックスという手法だった。
加藤「3Dを使った映像はどうしても情報量が多くて、ゴテゴテとした印象になってしまいます。そうした“重い”映像よりも、シンプルで軽やかなモーショングラフィックスに惹かれたんです。
ただ、当時、モーショングラフィックスはいまほど活発な分野ではなく、専門学校にも授業はなかった。そこで、学校で基礎的なことを学ぶ傍ら、海外のクリエイターが発信するTIPSを勉強しながらモーショングラフィックスも学んでいったんです」
「仕事のスケール感」と「クリエイターの自由度」のジレンマ
そうして、独学メインでモーショングラフィックスを深めていった加藤は、専門学校卒業後、EDPの門を叩く。「EDPのつくる映像はシャープでエッジが効いたものが多く、ここならば、シンプルでかっこいいモーショングラフィックスがつくれるんじゃないかと直感したんです」。
入社すると、TVCMを中心に、さまざまなモーショングラフィックデザインに携わった。当時のEDPでは、CMや広告系など、マスメディアの仕事が多くの割合を占めていたという。
加藤「大きな仕事なので見てくれる人が多く、その点にはやりがいを感じていました。しかし、クライアントがいて、エージェンシーがいて、プロダクションがいて、最後にEDPがいる……という仕事の流れであるがゆえ、僕らのところに降りてくるまでに方向性のレールが敷かれてしまい、自由度は限られてしまう。いちクリエイターとしては、敷かれたレールからなかなか外れられない、というジレンマを感じることも多かったんです」
社長就任時に感じた「このままではまずいのではないか」という危機感。それは「時代の変化に淘汰されてしまうのではないか」というだけでなく、「降りてくる仕事ばかりをこなしているだけでは、自分たちで新しい発想を生み出せなくなってしまう」というクリエイターとしての危機感も含まれていた。
加藤「クリエイティブの道筋が決められていること自体は、必ずしもネガティブではありません。やるべきことが明確だし、手を動かせば形にできるので、作り手としてはとても楽です。しかし、それだけになってしまうと、クリエイターとして柔軟な発想を磨き、クライアントの要望に応えることができなくなってしまうような気がして……」
もちろん、うまくいく保証はどこにもない。ただ、加藤の直感は、レールのない方向への流れを捉えていた。
そんな直感を信じ、EDPはこれまでの主力事業だったテレビCMをはじめとする広告案件だけでなく、企業ブランディングやアート・エンタメ領域系の映像制作という、大きく性質の異なる領域へと踏み出していく。
「チーム制」が育む、自主性あふれる企業文化
『Motion Graphic Design for human life.』
代表就任後、加藤はEDPのステートメントとして、こんな言葉を設定した。
加藤「僕たちの使命は、“デザインを動かす”ことで、“人々の心を動かす”こと。それによって世の中は変わり、人々の生活が良くなると信じています。それは、これまでEDPが大切にしてきた価値であり、これからも大切にしていきたいもの。そんな気持ちを外側に発信すると同時に、内側にも浸透させていこう、という決意が込められたステートメントです」
そうして元々EDPのクリエイティブの質の高さを知っていた企業やクリエイターづてに領域を広げはじめ、映像・広告業界のみならず、ブランディングを必要とするさまざまな企業や、斬新な映像表現を求めるアーティストなどからのオーダーが増えていく。クライアントともに二人三脚で、既存の枠に囚われないものづくりを志向し、クリエイターとしてのアイデアを詰め込める環境をつくっていった。
もちろん、これまで通りの高いクオリティは維持したままで。例えば、合同インターンシップイベント「47 INTERNSHIP」のために制作したモーショングラフィックデザインが、イギリスのデザイン賞D&AD Awards 2021にてYellow Pencil(金賞相当)を受賞している。
これまで多かったマスメディアの仕事と、新しく手がけるようになった領域の仕事では、どのような違いがあったのだろうか?
企業ブランディングの案件では、「ブランドが持つロジックを映像化」しているという。「担当者にヒアリングをしながら、そのブランドの持っている温度感や色、形や動きの速さ、奥行きなどについてのイメージをすり合わせ、映像へと落とし込んでいくんです」。
アダストリアの子会社によるD2Cファッションブランド「O0u(オー・ゼロ・ユー)」のブランドムービーでは、サステナブルというブランドのコンセプトに寄り添ったモーショングラフィックデザインを制作。繊維のような細い線が連続的につながっていく姿は同ブランドのサステナビリティに対する価値観を、激しく切り替わる動きのある映像ではなく、線の流れで表現される落ち着いた映像は同ブランドの温度感を表現している。
一方、アート領域の映像は、ブランディングのようにロジックだけでもなく、広告のように視聴者に訴えるだけでもなく、独特の感性が必要とされる。2021年にギンザ・グラフィック・ギャラリーで行われた『SURVIVE 石岡瑛子展』のオープニング映像は、まさに現在のEDPを象徴する作品となった。
加藤「この仕事は、展示空間に入ってすぐの場所に、石岡瑛子氏の作品を使った映像を入れたいというオーダーからスタートしました。展示のオープニングなので、単純なスライドショー的に作品紹介をしても意味がない。石岡瑛子作品のダイナミックな魅力を体感できる映像にするため、彼女の作品に動きをつけていったんです。
モーショングラフィックデザインによって、映像が魅力的になるだけでなく、空間の魅力も向上する。展覧会に来たお客さんの期待感をも高めるんです」
石岡瑛子という“巨匠”の作品に、後から「動きをつける」ということは生半可な所業ではない。故人である石岡自身への確認は取れないうえ、熱狂的なファンから批判されるリスクもある。そうした難題を乗り越えての成果だという点は、特筆に値するだろう。
動画が「文化」になる時代
だが、こうした大きな経営方針の変更に対して、社内から反発はなかったのだろうか?
加藤「もちろん全社的に議論はしましたが、概ね社員の評価も高いですね。『このままではまずい』という危機意識が、社員と共有されていたことが、経営方針の移行をスムーズにしたのではないかと思います」
そうして経営者としての責務も果たしながら、加藤はクリエイターとしてのものづくりも続けている。就任当初は「ものをつくる時間が減ったのがしんどかった」と振り返るが、段々とバランスをつかみ、今では50:50ほどのバランスで経営者とクリエイターを両立。2021年には、加藤自身、「映像作家100人」にも選出された。
加藤「経営者としての視点を持つことで、クリエイティブに対する発想も変わってきました。ヒアリングで得た言葉から、その裏側の経営課題を読み取り、課題をデザインに反映しやすくなった。機転が利くようになったし、以前よりも親身になれている気がします。
昔はいいものって、かっこよくておしゃれなものだと思っていました。けれども、いま思うのは、それだけではない。かっこいいのはもちろんですが、顧客の課題をクリアしていくことも『いいものづくり』なのではないかと、身を持って理解できるようになった感覚があります」
積み上げたロジックではなく、直感を重視して行われた改革は功を奏し、EDPの活躍する領域は拡大しつつある。加藤は、経営者として、映像領域のこれからについてどんな勘を働かせ、いかなる展望を抱いているのだろうか?
加藤「きっとこの先、映像業界において、動画が『文化』になっていくのではないでしょうか。既に多くの人にとって、動画を見ることだけでなく、撮影すること、発信することが当たり前になっています。しかし、長い歴史の中でいくつもの権威あるアワードが設立されて、文化として高い地位を獲得しているグラフィック領域と比べて、動画の歴史は短く、『文化』としての地位も低いようにも思えます。
しかし今後、動画がより浸透していけばその地位は高まり文化としても広く認められるようになっていくのではないでしょうか。我々自身、その一助になりたいと思っています」
人々の生活に浸透した動画は、これから文化へとさらなる発展を遂げていく。これまでと同じかそれ以上の変化が、映像の世界にもたらされるだろう。
そのとき、長く続く企業もまた、歴史に執着するだけでなく、ときに軽やかにその歴史をゼロに戻して、新たな出発をすることを迫られるはずだ。
ある日突然、代表に就任した加藤。勢いのままに流れを掴んできた彼は、この先に待ち受ける荒波の中にある「流れ」も見極めていくのだろう。
[取材・文]萩原雄太[編集]小池真幸[写真]今井駿介
Featured Projects 2023は今週末、4月8日と9日に品川のTHE CAMPUSにて開催されます。会場では、EDPが制作したムービーもご覧いただけます。
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(Sponsored by EDP graphic works)