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グッドパッチ上場によせて

その日は、朝から雨だった。

降り方こそまばらだったが、梅雨らしい空模様。時折風も強くなるので、壊れても諦めのつく少し古いビニール傘を片手に、筆者は中央区兜町に向かった。

2020年6月30日、グッドパッチが東京証券取引所マザーズへ新規上場を果たした。証券コードは7351。公開価格の690円に対し、翌日ついた初値は約4倍の2757円となった。

新型コロナウイルスの影響で上場セレモニーは開催されなかったが、同日に記者発表を実施。オンライン・オフラインの双方で開催されたが、その瞬間に立ち会うべく、筆者は東証へ足を運んだ。

会見に臨んだのは、執行役員の柳沢氏、槇島氏、そして代表取締役の土屋氏の3名。創業以来二回目というスーツ姿の土屋氏は、(本当に若干だと思うが)少し緊張した面持ちに見えた。

デザイン会社が上場する意味

発表では「成長可能性に関する説明資料」の説明を軸に、話が進んだ。

土屋氏いわく、「通常3〜40ページほどの資料が多い中、同社は60ページを超える。その理由のひとつがなぜ今デザインが重要なのかにページを割いたから」だという。

詳細は是非資料を見て欲しいが、端的に言えば、デジタルプロダクトの台頭による「体験価値が重要な時代への変化」が背景にある。

結果、グローバルではコンサルティングファームなどによるデザインファームの買収事例などが増え、デザイナーが創業陣にいる企業が躍進を遂げた例も見られるようになった。

その一方、国内ではいまだデザインを“装飾”と捉え、価値が適切に認知されていない実態もある。

ただ、この新型コロナウイルスの影響もありDXが劇的に進む可能性が期待される中、デザインが担う“ユーザーの体験”は非常に重要な要素になる。だからこそ、“今デザインが重要だ”という。

上場へたどり着けた要因

では、数多のデザイン会社がある中、なぜグッドパッチが上場できたか。

この点は「特徴と優位性」の項目がそのまま答えとなる。

一つは「デザインファーム」として独自のポジション。仕事が仕事を呼ぶという表現の通りだが、アウトバウンドに案件を獲得しに行かずとも、インバウンドでリードを獲得する。安定的に引き合いがある状態を構築してきた。

もう一つは、そうした仕事を適切にこなし、成果を出せること。つまり組織の強さだ。デザイナーの採用〜育成〜マネジメントの経験値とナレッジ。加えて、それらを活かし、属人性低く安定的に成果を出せるデザインプロセスの開発。この二軸によって、案件が増えても規模を広げれば上手く回るループが生まれた。

ナレッジに関しては筆者も興味を持ち、何度か話を伺っている。

無論、この体制を作るまでには組織的に苦戦した時期もあった。

ただ、その試行錯誤の結果生まれた組織が、同社を上場へと急加速させる動力源へとなった。この経緯も過去に取材したが、経常利益の数字と並行してみると、組織状態が事業成果へいかにつながっているかがわかりやすい。

上場からの第二部へ

今後の成長戦略は、主力事業である「パートナー事業」をDX文脈上でしっかりと拡大し、自社事業を含む「プラットフォーム事業」の種を着実に伸ばしていくという堅実なアプローチが語られた。

各事業ごとに詳細は語られているが、特に筆者が印象的だったものを二つ紹介する。

一つは、プラットフォーム事業のGoodpatch Anywhereだ。過去にdesigningでも取材しているが、フリーランスの集合体で不良リソースが少なく利益率が高いこのモデルの可能性は大きいという。

捉え方によってはクラウドソーシングともギルド型とも言えるが、筆者が以前取材した印象では、より会社組織に近い絶妙なバランス感を持つ。この組織のあり方はデザイン以外にも応用可能性がありそうだと感じている。

もう一つは、顧客企業への投資。これは、事業として語られてはいなかったが、FiNCやbitKeyへは出資をおこなうなど「デザインの支援」だけではない切り口で事業成功へコミットしている。

この投資活動がグッドパッチ自体の成長にどれだけつながるかはまだまだ読めないが、“デザイン”に軸足を置いた投資活動をおこなう企業は国内だとIDEOによるD4Vくらいしか存在しない。どう拡大するか個人的には楽しみにしている。

記者からの質問で、中長期の目標に土屋氏は「1000人100億円」とった定量的な目標や「デザイン会社がSIerなどを傘下に収める」「従来は事業が主で、デザインが手段として従するものだったが、デザイン(ユーザー視点)が主で、事業が横並び(ないしは従)となるような姿」といったアイデアを語った。

上場によせて

筆者がグッドパッチと最初に出会ったのは2015年、UI Crunchの場だった。

当時建築設計をしながらライターをする中、ウェアラブルデバイスにおけるデザインというテーマに関心を持ち、取材で足を運んだ。偶然にも、ちょうど5年前の6月だ。(残念ながら、筆者が書いた記事は消えてしまっているため@typeのものを掲載しておく)

この取材の数ヶ月後、筆者はデザインコンサルに転職しデザイン業界の人間としてもUI Crunchに何度か訪れるようになった。

直接取材をしたのは、2017年。同社がFinTechへの注力と共に資金調達を発表したタイミングだった。(当時は組織崩壊のまっただ中だ)これ続けて、翌月にはイベント取材もおこなっている。

この二つの取材は、自分の中で転機になる経験となった。いずれの取材でも「経営レイヤーからデザインが関わる重要性」が言及され、デザインがよりビジネスを理解し、経営レベルから重要性を語り、組織全体に浸透させていく必要性が述べられた。

筆者は当時デザイン会社に勤めていた身だったが、この土屋氏の論は自分の思っていた「デザインがビジネスへ貢献する」というレイヤーの数段上から物事を捉えており、非常に刺激を受けた。

結果、そこから「デザインとビジネスをつなぐ必要性」について考えるようになり、2018年末にdesigningを創刊、2019年にweavingを創業している。

上記記事含め、この5年弱で両手では収まらない回数同社の取材を重ねてきたが、この間で同社は苦労を重ねながらもIPOへの階段を駆け上がってきたと思うと、感慨深い。

メディアとしては、その経緯をつぶさに追い続けられたわけではないのは悔やまれるが、デザイン業界にとって大きな変化点に立ち会えたことは、とても嬉しく思う。

あまりこの言葉で締めるのは好きではないが、今回だけは敢えて使いたい。今後の活躍を、心から期待したい。

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