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デザイン読書補講 2コマ目『はじめての編集』

こんにちはこんばんは、吉竹です。2021年もよろしくお願いします。

この『デザイン読書補講』は「デザインを学び始めた人(主に学生)の世界を少しでもひろげられるような書籍をおすすめする」をコンセプトに連載しています。

わたしの自己紹介や、この連載が生まれた経緯は1コマ目『UX・情報設計から学ぶ計画づくりの道しるべ』で書いていますので「どういう人が書いているんだろう?」と気になった方は合わせて読んでみてください。

今日の1冊

デザイン読書補講 2コマ目にご紹介するのは、菅付雅信『はじめての編集』(アルテスパブリッシング)です。

編集(あるいは編集者)、と言われるとみなさんはどのようなイメージを持ちますか?本や雑誌を作る人、全体のまとめ役、連絡係……ゼミで冊子を作るときくらいしか「編集」を意識しなかった学生時代の自分にとっては、そんな印象が強い言葉でした。でも今なら、編集というおこないはもっと広い物事に対して見出だせるのだとわかります。今日はそんな「編集」に対して視野が広がる1冊を選んでみました。

著者の菅付氏はクリエイティヴ・カンパニー『グーテンベルクオーケストラ』を主宰する編集者。これまでのお仕事に『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』編集長、『メトロミニッツ』クリエイティブディレクター、『電通デザイントーク』シリーズ編集、『アイデアインク』シリーズ編集(共編)などがあります。

ただ、編集する対象は雑誌や書籍にとどまらずウェブ、広告、展覧会(場)など“編集”を様々な領域で展開。グーテンベルクオーケストラのウェブサイトをご覧頂ければ、その幅広さがわかります。

『はじめての編集』は菅付氏が2010年におこなった講座をベースに構成されています。そのため読みやすい語り口で書かれており、雑誌を中心に編集を構成する要素について広く紹介されています。実務的なハウツーや細かいプロセスが書かれているわけではないので「明日から編集ができる!」わけではありませんが、「編集に携わる人ってこういうことを考えてるのか」「編集の構成ってこういう視点でできているのか」と気付ける、入門にぴったりの1冊となっています。 

今回「編集」にまつわる本を紹介したのは、「編集とデザインって扱う領域だったり視野に重なる部分があるよね」と感じている気持ちが自分の中にあるためです。デザインについて考えているとき、そこには編集的思考が伴うし、編集について考えているときにはデザイン的思考が伴う。100%一致しているわけではないんだけれども、深いところでつながっている……それはベン図のような重なりではなく、どちらかと言うと源流から分かれた2つの川のような……。

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もう少し大仰な言い回しを使うと、人間を支えている活動領域にデザインやら編集やらが混じり合った抽象的な概念が存在していて、そこからある1片を切り出すと、デザインや編集といった言葉になるような気がするんですよね。

そうした関係性をみなさんにも感じ取ってもらえたら嬉しいなと思い、この本を取り上げてみました。

本書の構成

本書の構成はシンプルです。まず1章では編集の歴史が簡潔に紹介され、続く2〜5章では編集を構成する企画、言葉、イメージ、デザインについて事例を交えて解説されています。6章では編集が持つ意味の拡がりに触れ、最後の補講では「美しさ」について書かれています。

挙げられている事例は雑誌や書籍が中心ですが、そこで語られている言葉はどの領域で活動する人にも当てはまる内容となっています。いくつか節を抜き出してみましょう。

・企画にはターゲットがある
・優れた企画は、企画を感じさせず、世界観を感じさせる
・読者によって、タイトルや文体はこんなにも変わる
・良いイメージをつくるには、イメージのアーカイヴが必要
・デザインはモノの見方を具体的に示すこと

どうでしょう。雑誌編集に限った話ではなさそうだな、と思えてきませんか?学生の方であれば、例えば制作課題のプレゼン資料やレポート、ポートフォリオなどにも活かせるでしょう。デザインに編集の視点を加えるとこんなにも変わるんだ、と実感できるはずです。

もうひとつ、本書の特徴にリファレンスとしての側面が挙げられます。もともとが講座形式だったこともあり、様々な書籍・雑誌が関わった中心人物のクレジットとともに掲載されています。また、そのほとんどには菅付氏の解説が加えられているため、対象を初めて知る人にとっても「そういう意図が含まれているのか」と参考になるでしょう。

本書の持つリファレンス性は、この連載の想定読者である「デザインを学び始めて1〜2年の方」にとても適しています。読書中に気になった書籍や関係者の名前をメモしたり、その場で検索してみてください。4章『イメージはアーカイヴから生まれる』にもあるように、優れたアウトプットは優れた(そして数多くの)インプットから生まれますし、ひとつの事柄について調べてみるとそこから新しい情報との出会いへとつながっていきます。

ウェブブラウザでとりあえず検索するだけでも履歴に情報が残って後々振り返ることができますから、ぜひ積極的に調べてみることをおすすめします。

僕たちは世界を編集しながら生きている

冒頭で「編集とデザインは重なる」と書きましたが、自分なりに考える編集とデザインの共通項は「何かしらの意図をもとに考えを巡らせ、選択して決断し、実現に向かって進む」ではないかと思います。

例えばその技術や思考が雑誌に長けている方であれば雑誌編集者になるし、映像なら映像編集者、グラフィックならグラフィックデザイナー、料理なら料理人、とそれぞれの専門領域ができあがるんじゃないかなと。そう考えると、自分は自身の人生の編集者である、とも言えそうです。

以前ポッドキャストでBNNの編集長の村田純一さんとお話させて頂いたときに聞いた、忘れられない言葉があります。

「もっとも身近な編集のひとつって、Macのメニューの『編集』だと思うんだよね。それとSNSの『プロフィールを編集』。今の若い世代って、自分のアイデンティを認識することが日常的になってきているんだよね」

言われてみれば!それまで意識していなかったけど、編集ってこんなにも身近な行為になっていたんだ、と目から鱗が落ちた瞬間でした。

僕たちは編集された世界を生きているとも言えるし、世界を編集しながら生きているとも言える。そして、ときには思いもよらない影響を与える側になる状況だって十分にありうる。特に、デザインを学んでいるみなさんに思いを巡らして頂きたいのは、編集されたもの・デザインされたものが及ぼす影響についてです。

編集とデザイン、その影響

いま、ひょっとしたらみなさんはデザインを「かっこいいこと」「素敵なこと」だと思っているかもしれません。それ自体はなにも間違っていません。僕もそう思います。ですが、その心持ちだけで当事者になると危険を伴う可能性があることも忘れないでほしいのです。

人の手から人の手へ渡る情報や物質はほぼ間違いなく編集・デザインされていると言っても過言ではありません。もう少し直接的な言い方をすると、加工されコントロールする存在として生まれている。誰かの役に立ってほしい、誰かを楽しませたい、こんな人に読んでもらいたい……そう願う気持ちですら「意図があり、選択され」ている以上、対象をコントロールする力が働きます。これは決して後ろ向きな話ではなく、そうなってしまう仕方のない事実として認識したほうが適切に扱えそうだよね、あるいはそこからどう脱却できるだろうか?という問いかけにつながります。

編集されたもの・デザインされたものによって誰かが傷ついたり悲しむ状況はいまだに生まれています。気を緩めれば、それ以上の事態に発展する場合もあるでしょう。どうか、編集されたもの・デザインされたものに対して向ける熱量と同程度のまなざしと疑念を、自分自身が生み出す言葉や姿勢にも向けてみてください。前回「自覚的であろうとする心がけをぜひ常日頃から意識してほしい」と書きましたが、それはこの文脈においても同様です。

BNNさんの『悲劇的なデザイン あなたのデザインが誰かを傷つけたかもしれないと考えたことはありますか?』にはデザインによってもたらされた様々な事例が掲載されていますので、合わせて読まれるのを強くおすすめします。

もちろん、ちょっとした力の働きが社会をより良い方向に向けてくれるケースもあります。個人的に印象深いのは、関西圏の駅でよく見られる線路と垂直に設置されたベンチです。

線路と水平が常識だったベンチを90度傾けた「だけ」なのに、その前後で見え方が大きく変化する。これはとても素晴らしい「編集」であり「デザイン」だと思います。

編集を通してデザインを考える

「編集」はテーマとして広く深く、自分ひとりが到底語りきれるものではありません。また、人それぞれの編集観や編集哲学もあるでしょう。本書を皮切りに「編集」というおこない、そしてそこからデザインについても考える機会をつくってもらえたら嬉しいです。

今日の読書補講はこのあたりでおしまいにしたいと思います。どうもありがとうございました。

なお、designingのポッドキャスト『designingcast』でも、今回の内容について編集長の小山さんとお話しています。補足資料として聴いてもらえたら嬉しいです。

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