グッドパッチ、デザイナー特化型キャリア支援サービス『ReDesigner』発表。デザイン組織の構築支援に向け、人へアプローチ
(『UNLEASH』より転載)
2017年末、『デザイン組織のつくりかた』と題した書籍が発売された。
原著は2016年にオライリーより発行された『Org Design for Design Orgs』。“デザイナーが集まる組織をどうデザインするか”をテーマに、米UXコンサルティングファームAdaptive Pathの共同創業者が著した本だ。
デザイン思考のムーブメントもあり、さまざまな領域においてデザイナーと名のつく職種の重要性が認知されるようになった。海外では事業会社がクリエイティブファームを買収し、社内にデザイナーを抱えようとする動きが起き、事業にどうデザインを組み込んでいくかの模索が続いている。
そのひとつに「デザイン組織」を自社内に構築する動きがあり、書籍が発売されるほどのニーズが生まれている。国内でも現・Basecamp CEO/Onedot CCOの坪田朋氏が手掛けたDeNAのデザイン戦略室のような事例があるが、その数はまだ多くなく、方法論も模索が必要な段階だ。
「デザイン組織」の領域へ人材面からアプローチしようとするデザインファームがいる。UI/UXデザイン領域のリーディングカンパニーで、マネーフォワードやコミックDays、JINS MEME OFFICEのUIデザインや、プロトタイピングツール『Prott』の開発でも知られるグッドパッチだ。
デザイン組織に必要な人と組織を支援する『ReDesigner』
2018年5月23日、グッドパッチはデザイナー特化型キャリア支援サービス『ReDesigner(リデザイナー)』をリリースした。
グッドパッチは現在世界4拠点・130名以上のメンバーを擁し、その半数がデザイナーだ。ReDesignerは数多くのデザイナーと出会う中で同社内に蓄積された、デザイナーのキャリア構築や働きやすい組織作りといったナレッジを活用。デザイナー側と採用する企業側双方にアプローチし、ミスマッチのないデザイナーのキャリアアップを支援していくサービスだ。
デザイナーには、オンラインサーベイやキャリアデザイナーとの面談を通しデザイナーの指向性の分析やキャリアデザインの支援を提供。キャリア観を明確にし、どのようなキャリアを構築していくべきかを共に考えていく。
企業には、企業がどのようなデザイナーを必要としているかをデザイナー目線で確認しつつ、採用支援からデザイン組織の立ち上げ支援。デザイナーが働きやすい組織作りをサポートするコンサルティングなどのサービスを提供する。
グッドパッチ代表取締役の土屋尚史氏はReDesignerを“組織やデザインストラテジーの課題解決”に寄与する自社サービスとして、同社の戦略におけるひとつの軸として位置づける。
土屋「我々が取り組む『ビジネス課題をデザインで解決する』というアプローチには、“プロダクトの課題”と“組織やデザインストラテジーの課題”という2つの対象があります。当初はクライアントワークでアプローチし、プロトタイピングツール『Prott』などの自社プロダクトではコラボレーションやプロトタイプしやすい環境構築を行いプロダクトの課題解決にも寄与してきました。今回のReDesignerは後者の組織やデザインストラテジーの問題解決へとアプローチするものです」
デザイン組織構築のニーズから、人へ
ReDesigner誕生のきっかけはデザイン組織に対するニーズの高まりにある。
グッドパッチが特にそのニーズを強く感じたのは金融領域だった。昨年4月にFinTech領域に特化したチームの立ち上げを発表。さまざまな金融機関のプロダクトや新規事業開発の支援を行ってきた。支援の中で金融機関から「デザイン組織を社内に作りたい」という話が徐々に出てくるようになったという。
土屋「金融機関をはじめ、さまざまな企業からデザイン組織を作りたいというお話をいただくようになりましたが、デザイン組織の構築には要となる人が必要です。デザイン組織を作りたいとご相談いただく企業はデザイナーを雇った経験がありません。そこで働くデザイナーを集めるには、とてもハードルが高いのです」
デジタル領域におけるデザイナーのキャリア例
ここには大きく2つのハードルがある。ひとつは企業側が求める適切なデザイナー像の定義が必要であること。もうひとつはデザイナーが働きやすい環境の整備が必要なことだ。どちらも自社内にデザイナーを抱えさまざまな企業とプロジェクトを行うグッドパッチは日々考えている。このナレッジを上手く活用することで、ミスマッチなく効率的にデザイン組織を作れるのではないか——ここから、ReDesignerの構想へとつながっていく。
土屋「デザイナーが働きやすい環境を整えることからはじめ、その環境にマッチするデザイナーをつなぐ。ミスマッチのないデザイン組織作りのために、我々が人材領域のサービスをやる意味があると考えています」
次のフェーズでは教育へのアプローチも
デザイン組織の構築に向け、人材領域に軸を置きアプローチしていくReDesginer。グッドパッチはReDesginerを入り口に、今後はデザイナー人材の育成も視野に入れていきたいと考えている。
土屋「今回のReDesignerはミスマッチの解決のためのアプローチです。もう1つアプローチしなければいけないと感じているのが、マーケットにおける圧倒的なデザイナーの人材の不足です。ミスマッチが起こり、人も足りていない。次のフェーズではデザイン人材をいかにマーケットに増やしていくかという教育事業にもチャレンジしていきたいと考えています」
デザイナー人材への需要が増加しているトレンドを表す事例として、土屋氏はTech Crunchの記事を紹介してくれた。記事内ではIBMやLinkedIn、DropboxといったIT企業でデザイナーとエンジニアの比率を比較。2012年から2017年でデザイナーの割合が増加している旨を示している。最も顕著なIBMではこの5年でその割合を9倍に増加している。
土屋「嬉しいことにデザイナーの需要はすごく増えていますし、企業もプロダクトを作るためにはデザイナーが必要だと感じるようになってきた。特にUX、UIなどは顕著です。一方で、既存の教育システムで時代にフィットしたデザイナーを輩出できるかというと、必ずしもそうではありません。特にUI/UXはマーケットの変化が激しいゆえに知見が貯まらず、アカデミックにも落としこみづらいのだと思います」
そのなかでグッドパッチは2011年からUI/UXに特化した事業を展開し、新卒採用も積極的に行うなど、実践の中で得たナレッジの蓄積がある。無論、事業と教育では異なる点も多々あるだろうが、それも踏まえた上で教育領域への展開も検討を進めているという。
土屋「教育は決して簡単なものではありません。事業的に採算が合う形を考えるにも、時間を要するでしょう。社会に求められるサービスにするためにも単にオンラインコースだけではない最適な形を模索する必要もあります」
ここで土屋氏にデザイン教育で注力すべきものを伺うと、ビジネスの知識にあると教えてくれた。
土屋「先日ある美大の図書館に行ったところ、ビジネス書が全然置いていないことに気づきました。現状デザインとビジネスを切り離して考えることはほぼ不可能に近い。にも関わらず現状のデザイン教育はその視点が不足している。今後のデザイン教育を考える上ではビジネスの視点は外せない物となるはずです」
デザイン組織を構築し、より多くの組織にデザインをインストールするためには既存のデザイナー育成のスピードでは間に合わない。これは人手不足という社会の問題もあるが、教育の問題も間違いなく影響している。
グッドパッチのミッション『デザインの価値を証明する』を鑑みると、今回のReDesigner、そして検討を進める教育はこれまでの事業領域以上に大きな意味を持つのではないだろうか。
土屋「僕たちは今後も企業とデザイナーの間に立ち、企業にはデザインに対する正しい認識を伝え、デザイナーには過去のデザイナーの領域に囚われずにこれからの時代でデザイナーに求められていることを伝えていきます。日本のデザインのマーケットを変革していきたいと考えています」
社会にデザインをインストールするため、組織と人にアプローチする同社の今後に期待したい。