CyberAgent、DeNA、mixi、BizReach。渋谷メガベンチャーのデザイン領域役員が語る、デザイン経営の現在地 #DesignScramble
2018年11月24日、DesignScramble 2018にて『「デザイン経営」の実践。渋谷メガベンチャー3社のデザイン領域執行役員トークセッション』が行われた。
今回のトークセッションでは、以前designingでもお話を伺ったビズリーチCDO田中裕一氏がモデレーターを務め、CyberAgent、DeNA、mixiという3社のデザイン担当役員が登壇。デザイン領域を担う経営メンバー視点でデザインと経営の接続や、ビジネスへの貢献を考えるトークが展開された。
佐藤洋介
株式会社サイバーエージェント 執行役員 / クリエイティブ統括室 室長
大学院卒業後、大手印刷会社のWeb制作部門に入社。2012年、サイバーエージェントに中途入社。数々のスマートフォンサービスの立ち上げを経験したのち、クリエイティブ統括室を設立。現在はクリエイティブ領域の執行役員として各サービスのデザインを監修。
増田真也
株式会社ディー・エヌ・エー 執行役員 デザイン本部長
多摩美術大学 環境デザイン学科 卒 2008年デザイナーとして中途入社。mobageのマネージャー、スマホ版mobageなどの立ち上げを経て、音楽ストリーミング配信サービスや地域SNSなど新規事業のプロダクトマネージャーを経験。大手ゲーム会社とのプラットフォーム開発におけるプロダクトマネージャー、デザイン戦略室の副室長を兼務後、2018年4月からデザイン本部本部長に就任。
加藤博昭
株式会社ミクシィ 執行役員 デザイン領域担当
地元名古屋のテレビ局にてWebデザイナー、フリーランス、アプリ・ゲーム開発会社を経て2014年にミクシィ入社。参画当初よりモンストのUI設計や演出を手がけ、XFLAGにおけるデザイナー・クリエイターの組織作りに携わる。2018年4月、アート・デザイン領域の執行役員に就任。
田中裕一
株式会社ビズリーチ CDO/デザイン本部 本部長UXデザイナー / デザイン戦略家
企業のデザインマネジメントやデザイン戦略を行う。HCD-Net認定 人間中心設計専門家。制作会社、株式会社ディー・エヌ・エーを経て、2017年4月に株式会社ビズリーチへ参画。事業づくりを通じてデザインのチカラで世の中の課題解決と価値創造を成し遂げるため、CDOとしてデザイン戦略を計画・推進。
デザイン領域を担う経営層としての役割
2018年5月に発表された「デザイン経営」宣言では、経営手段としてのデザインの重要性が語られた。しかし実際に経営層の中にデザイン領域の執行役員をおき、実践をしている企業はまだまだ限られている。
今回登壇した4名は、いずれも経営層としての役割をもち、デザイン領域の責任も担う面々だ。まずは、それぞれの役割について紹介された。
左から、ビズリーチ田中氏、ミクシィ加藤氏、サイバーエージェント佐藤氏、DeNA増田氏
ビズリーチ・田中裕一氏(以下・敬称略):ビズリーチでは2018年8月からCDO(Chief Design Officer)を設置し、経営の直下にデザイン本部をおきました。私自身は、経営直下で「経営起点の課題をデザインの戦略で解決し、中長期の経営に価値を生み出す」ためにデザイン戦略を計画し推進する役割を担っています。みなさんは執行役員として、どのような形で統括を行なっているのでしょうか。
DeNA・増田真也氏(以下・敬称略):私はデザイン本部の本部長の役割を担っていますが、会社から言われているのはDeNA全体の執行役員でもあるという意識を持つということ。全社の人事制度や予算の議論にももちろん参加しますし、それに加えてデザイン本部の本部長としての役割が追加されているようなイメージです。
具体的には、デザイン本部のミッション・ビジョン・バリューの設定や、デザイン戦略の立案と推進、各グループリーダーのマネジメント、予算の管理、採用・評価...一通りですね。
デザインへのインプットはメンバーへの信頼のもと、任せているので、ほぼすることはないです。
サイバーエージェント・佐藤洋介氏(以下・敬称略):僕も増田さんと同じくデザイナーである前に経営メンバーなので、マネジメントは切っても切り離せない業務ですね。ただ、マネジメントは6割ほど、4割はデザイナーとしてあくまで手を動かすことを大切にしています。
社内で新規事業等が立ち上がるときには有志でデザインコンペをするんですが、今でもコンペには出すくらい、業務としてデザインは続けています。むしろ、たまたま忙しいタイミングで出さないことがあると現場のメンバーから指摘が入るくらい、そこも見られている。手を動かし続けるデザイナーであることは重要に捉えています。
ミクシィ・加藤博昭氏(以下・敬称略):私も、増田さん、佐藤さんと共通する点は多いです。役員としての役割があり、デザインだけでなくユーザーに届けるサービスに責任者としての意識が強いです。
私の場合重要だと考えているのは、経営層が掲げているビジョン・ミッションなど価値定義をきちんと翻訳して、デザイナーへ伝えていくこと。デザインと経営の言葉を相互に翻訳し、つなげる役割を果たすイメージが近いですね。
「デザイン経営」宣言をどう捉えるか
デザイン経営の実践を語る上で、今年のトピックでもある「デザイン経営」宣言は切っても切り離せない。各社、それぞれどのように捉えているのだろうか。
サイバーエージェント佐藤氏は、デザインを経営に巻き込むべきという考えは、日本にもともとあった考え方なのではないかという。
佐藤:ソニーやキャノンなど、プロダクトの世界には、デザインファーストで作られてきた数々の製品があります。それが、ITの普及に伴って、デザインの品質がよりダイレクトにユーザーに届くような市場になってきた。その流れの中で発表されたのが、デザイン経営宣言だと理解しています。
あらゆるものごとは、時代の変化にアジャストさせていくことが重要です。アジャストさせるという技術は、デザイナーが得意とすることでもある。その技術を経営にも活かすよう働きかけるタイミングが、「デザイン経営」宣言が発表された今なのではと思います。
増田:「デザイン経営」宣言は経済産業省・特許庁、つまり国が出している点がポイントですよね。
大局的に捉えると、日本の多くの企業はロジカルに課題を解いていくことによって成長し、経済発展を遂げてきた。つまり、日本企業は今は左脳的な考え方が強い。
その中、「デザイン経営」宣言で、右脳(デザイン思考)の重要性を発信し啓蒙することで、結果的に右脳と左脳のリバランスが行われる、という流れができるのではないかと感じます。私自身、デザインを経営に取り入れる重要性を認識している一方、左脳的にロジカルに判断すべきこともあると考えています。
デザインの重要性を国が宣言することで我々のような人間が早期に気づき、会社の中でアクションを取る。そういったことを通し、社会全体で右脳と左脳のバランスを取っていくことが求められているのかなと。
加藤:確かに、企業の中ではロジックと感性といった言葉で別々に認識されることが多いように思います。そのバランスを、企業レベルでとろうという動きが徐々に出てきていると感じます。
ただITメガベンチャーと言われる我々から考えると、今までやってきたことの延長線上にある動きでもあるように捉えており、ユーザーの驚きにフォーカスしたサービス事業や、プロダクトを生み出し続けることを追求した結果、たどり着く答えが現状デザイン経営であると、私は考えています。
デザインと経営をいかに接続し、文化を醸成・浸透させるか
田中:冒頭加藤さんは、経営とデザインをつなぐ”翻訳”の役割を意識されているとおっしゃっていましたが、皆さんは、経営とデザインの現場に距離を感じる部分はありますか。
加藤:そうですね、常にというわけではないですが、組織が大きくなり関わるメンバーが増える中では、試行錯誤が求められる場面もあります。佐藤さんはいかがですか。
佐藤:サイバーエージェントは、少し特殊かもしれません。デザイナーが決裁者に直接提案することも多く、そういう意味での距離は近いですね。
たとえばメディア事業は代表の藤田が総合プロデューサー的に動いているため、彼が意志決定者でもある。僕は常に藤田の近くで働いていますが、現場のデザイナーにも提案に来てもらい、なるべく一緒に提案するようにしています。デザイナーの温度感を経営にそのまま伝え、経営の意図をダイレクトに現場に伝えることは重要だと思うので。
田中:DeNAは権限移譲の文化が強いと伺いましたが、増田さんはデザインと経営の接続をどのように感じていますか。
増田:DeNAは、基本的に各事業部の現場にジャッジが委ねられています。なので、経営との距離感が多少異なる部分はある。
とはいえ経営会議などで各事業部の本部長や経営層が定期的に話す場はあり、その中で時間をもらってデザインの話をする機会を設けたりしています。
経営層とデザインに関する会話をする際には、共通言語をもつことを意識しています。私自身、プロダクトの立ち上げを3回くらい経験しているため、小さな起業経験のようなものがあり、経営の言葉が理解できる。なので、経営の言語を自分の中に落とし込んだ上で、翻訳しながら会話するよう心がけています。
ビジネスへの貢献を数値化することから、逃げない姿勢
一通りパネルトークを終えた後、田中氏は会を締めるに当たり、それぞれが今後経営とデザインを接続するために重要になるであろう、デザインの貢献をどう表すかの議論を行った。
田中:最後に、デザインの成果や、デザインのビジネスへの貢献度はどのように可視化して伝えているかについて伺っていきたいと思います。これに対しては会社のカルチャーもあると思いますし、考え方も異なるかと思いますが、まずは数値に強いことでも知られるDeNAはどうでしょうか。
増田:おっしゃるとおり、DeNAではデザインがビジネスに貢献していることを伝えるために、数値化を進めたいと考えています。社内での分析を担当する部署と共に、定量化する方法論の研究を始めていますね。
ただ、私たちがやっているのは事業でありサービス。基本的にはデザイナーも、ビジネス側が見ている数値を同じものを見ればいいと思っています。デザインがビジネスに貢献していれば、基本的にはサービス自体のKPIに現れてくるはず。そこを分離させてしまうと、ビジネス・経営側に逆に伝わりづらくなってしまうのではないかなと思っています。
加藤:成果の見える化は難しいところですよね。私たちも始めようとしているところではありますが、サービスのKPIにどう影響するかを重要視しつつも、数値だけではなく定性的な反応も見て、総合的に判断していくことが大切なのかなと思っています。
必ずしも数値化しきれるものではないということを理解しつつ、サービスの貢献に向き合っていくことが重要だと考えています。
佐藤:サイバーエージェントはDeNAほど数値的分析は進んでおらず、定性的な部分を重視していたりもします。もちろんコンバージョンや施策の定量的判断は分析を行いますが、数値化できない部分はあるということを前提においているイメージですね。
数値化できない部分の重要性は、やはりその場ですぐに理解を得られるものではありません。そこに至るまで積み重ねたコミュニケーションが重要になる。経営層とのコミュニケーションでも、突然数値で説明できないことを通すのではなく、「この人が言ってきたことは信頼できる」というある程度の土台の上で、コミュニケーションをすることも必要だと思っています。
田中:成果の見える化やコミュニケーションの仕方も含め、どう経営を動かすかが重要なのかもしれませんね。
増田:そうですね。デザイナーの中には数値化や見える化に対して、苦手意識をもっている人もいるかもしれません。しかしそこから逃げない姿勢が大事だと思っていて。デザイナーが経営や数字などから逃げると、結果的に話ができない状況が生まれてしまいます。数値の本格的な分析は本当にできる人がやればいい。ただ、デザイナーがそういう姿勢を持っている、自分も経営・ビジネスを理解しようと思っているという姿勢が非常に必要なんです。
[文]Yuka Sato[写真提供]DesignScramble