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誰もがデータを扱いやすくするために『データのUX』を考える—— #theguild_study

2018年8月23日、THE GUILDが主催する勉強会『THE STUDY by THE GUILD』の3回目が開催された。

今回のテーマは『データ×UXデザイン』。データ活用を第一線ですすめてきた4名が登壇し、講演とパネルトークがおこなわれた。

THE GUILDからはUI/UXデザイナーである安藤剛氏が登壇した。2012年の創業以来、デザインとデータ領域を横断して、クライアントの支援を続けている。U-NEXTやnoteなどサービスのグロースを目的としたデータ分析をサポートしてきた経験を元に、データそのもののUXを向上するための考え方を語った。

安藤剛
THE GUILD / UX Designer
大手SIerにて大規模システムの提案・構築、海外事業開発等を歴任後、米カーネギーメロン大学の言語学者達と検索エンジンベンチャーの設立に参画。2012年よりTHE GUILDを創業し、UX・UIデザイン・エンジニアリング・データアナリティクスの領域を中心に活動。2016年より動画ストリーミングサービス「U-NEXT」のデザイン技術顧問としてサービスの成長を支援。
https://theguild.jp/
https://twitter.com/goando

社員がデータを活用できない原因はデータのUX

日本企業では、データの活用がまだまだ進んでいない。データ活用の意欲を持った企業は増えているものの、全社的な動きとして巻き込んで取り組めている企業はまだ少ないという。

それを裏付けるデータとして、総務省が公開している、日本と米国で活用している企業の割合を比較した数値を示した。

安藤剛氏(以下・敬称略)「日本は5割の企業が、アメリカは7割の企業がデータの活用を業務に取り入れています。この時点で2割近い差がありますが、その中でも『積極的に活用している』と述べている数は日本は3割、アメリカは6割と、2倍近い差があるのです」

また、ガートナーが公開しているレポートによると、日本のデータを活用している企業のうち6割に関しては、データを使えている社員の割合が20%以下に止まっている。

安藤「データを使いこなしている企業がまだ多くない中からこそ、データを扱えるようになることはアドバンテージに繋がります」

他の登壇者たちが同様に指摘する通り、データをうまく活用する企業へと成長するためには、社員がデータを使いやすい環境を作らなければならない。そのためにダッシュボードを導入しているという企業は多い一方、データがなかなか浸透しない理由について、安藤氏は、データを社内に共有したときのUXに問題があると考えている。

安藤「データに慣れていない人にとって、ダッシュボードは飛行機の操縦席くらい複雑でわかりにくいもの。操縦席に座っていきなりアクションできる人は、パイロット以外にいませんよね。ITのダッシュボードは誰もが見るものですから、伝えたいことを明示する必要があります」

社内の人間がデータを読めないということは、データを介したコミュニケーションが生まれないということでもある。データ分析においてコミュニケーションが重要な役割を果たすのにも関わらずだ。

安藤「データ分析においては、現場の意見をはじめとする一次情報が非常に重要です。データ分析の担当者以外にも議論を開き、コミュニケーションを増やすことで、社員同士で共有する事実情報が増えていく。こうすれば、意思決定の精度が高まります」

伝えたいことが明確なら、インフォグラフィックを使おう

誰もがデータを認知し、議論できるようになるには、データの見せ方を変えなければならない。安藤氏は、データのUXはデザインとコミュニケーションを使って改善していくことができると話す。

安藤「デザインの力でUXを改善をする一つの手段として、インフォグラフィックは有効な手段です。また、コミュニケーションを誘発するために、チャットツールの使い方にもポイントがあります」

まずは、インフォグラフィックが、データと人の関係をどう変えていくのかが紹介された。

インフォグラフィックとは、データを図に落とし込んだもので、イラストが使われたものから円グラフや棒グラフまでを含む。安藤氏は、インフォグラフィックの特性を区別するためのベクトルとして「探索型」と「ストーリーテリング型」の2軸をを提示した。

安藤「探索型は、読み手が自分で意味を見つけていくタイプのもの。例えば棒グラフや円グラフなどのことを指します。ストーリーテリング型は、情報に能動的でない人も含めた多くの人を対象として、データを伝えることに注力したタイプのものです」

インフォグラフィックにどのような要素を加えるかを判断する上では、訴求力・理解力・記憶力の3つの優先軸が関わっている。特に『マーケティング』に利用する場合は、大量の情報に接しているユーザーに見つけてもらうべく『訴求』がもっとも重要となる。

同様に、出版物などの『エディトリアル』で利用する場合も、訴求が一番重要となる。一方、加工することなく客観的に事実を伝える必要がある論文や研究誌など『学術・科学』は、『理解』がもっとも優先される。

安藤「企業内で使われているデータは、『学術・科学』向けの見せ方に近い傾向があります。じっくり見れば理解はできるかもしれませんが、何を伝えたいのかという訴求が弱いので、データに馴染みのない人には何も伝えられません」

上の結果から、『読み手に読解を求める探索型のシンプルな棒グラフと、訴求に重点が置かれたストーリーテリング型のインフォグラフィックでは、見る人に全く異なった印象を与えていることが読み取れる。多くの場合、ストーリーテリング型のインフォグラフィックの方がより受け手に伝わりやすく、理解されやすいことがわかる。

安藤「このような結果が出てはいますが、凝ったイラストを使ったグラフばかりを使う必要はありません。データで伝えたい情報を明確にし、視覚的に美しくデザインすることで、より多くの人に訴求できるだけでなく、記憶に留めてももらるのです」


コミュニケーションが生まれるデータの共有方法

次に、コミュニケーションの力によるデータのUX改善の方法が紹介された。安藤氏がその最適な手段として例を挙げたのは、チャットツール『Slack』。多くの企業に導入されているダッシュボードについては、初期の段階ではコミュニケーションが生まれづらいため『必要ない』とも述べた。

今回は実際の導入事例として、noteの運営チームのSlackが紹介された。

安藤「noteでは、Slackをダッシュボードがわりにしています。毎朝30個ぐらいのグラフがbotから送られてきており、グラフに対しての議論がSlack上で交わされています。チャットは、ダッシュボードに比べてカジュアルなコミュニケーションが生まれやすい。

オフィスに備え付けのダッシュボードだと、その場に立ち会った人同士で交わされたコミュニケーションを他の人がなぞることができません。また、データの読み方を覚えるまでには経験が必要です。会話のログが残っていれば、データに関する知見を持つ人の発言を遡ることができるし、他の職種の考え方も知ることもできます」

このようなコミュニケーションを繰り返すことで、企業にとって重視すべきKPIが共有されていく。KPIの共有プロセスをがないままにダッシュボードを作ってしまうと、追うべきものが明確でない、飾りのようなモニターができてしまう恐れがある。

最後は、社内でUXの高いデータ活用を推進していくことの重要性とメリットをまとめ、以下のように会を締めくくった。

安藤「より多くの人に伝わるデータのビジュアルをデザインすること、そしてなるべく多くの人がデータを介した会話に混ざれるようコミュニケーション自体をデザインしていくことが重要です。データのUXを高めることは、デザイナーとデータを扱う人の双方にとって有益な機会となるのではないでしょうか」

Text:Yuuka Maekawa
Edit:Fujisaka
写真提供:THE GUILD

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