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「デザインとは何か?」と問い続けることを決めた——designing事業移管によせて

本日、designingは運営元をinquireへ移管する旨を発表した。

本記事では、事業責任者/編集長 小山の視点からメッセージを記す。

デザインの可能性は、ビジネスに限るのか?

2017年12月、designingは「ビジネスとデザインの距離を近づける」を掲げスタートした。それから3年強の月日が過ぎ、デザインを取り巻く社会環境は、筆者の意図とは関係なく大きく変化してきた。

その傍らdesigningは先述のテーマに軸足を据えつつ、デザインを中心とする領域に携わる多様な方々、事業者、団体とご一緒する機会を得てきた。計150本弱という(メディアと捉えれば)決して多くない数の記事ではあるが、その一本一本にその時々の社会の潮流や関心、著者や編集者の思考の軌跡が、確かに蓄積されている。

この日々の中では、「デザインの可能性はもっと広い」と痛感する機会が幾度もあった。確かに、ビジネスの中で担う役割と重要性の認知は広がって来ているが、むしろ“本当にその限りでよいのか?”と問われているような感覚が日に日に強まっていったとも言える。

その課題感から、2021年頭、designingはミッション・パーパスを再定義した。それが、現在媒体の説明文にも掲げている「デザインの可能性を探究する」「デザインの多様な側面を深化・探索しながら、その可能性をともに拓く」といった言葉へ接続されている。

「ビジネスとデザインの距離」にフォーカスを置くことは、デザインの可能性を「ビジネス」の中でのみ捉えることになる。無論、ビジネスひいては経済活動の中での価値発揮は、継続的に大きなインパクトを生み続けるには重要だ。それを無視して、“経済的には成立していないけれど、意味がある”状態は、決して長くは続かない。

他方で、デザインの可能性をビジネスの中だけで捉えることは、矮小化しているといっても過言ではない。両利きの経営で言われる「深化」の側面としてビジネスの中での価値発揮は大切だが、デザインを「探索」する動きはもっと広大な範囲で行われており、ビジネスはあくまでその価値を発揮する一側面でしかない。

designingが3年強の道筋の中で強く感じたのは「デザインそのものの可能性」だ。ゆえに、深化と探索の両輪から、その可能性を探究することをdesigningは掲げた。

「デザインとは何か」と向き合い続けるために

この探究は「デザインとは何か」という問いに向き合い続ける活動とも言える。

価値創造に、課題解決、分断の解消、希求への作用....デザインの可能性を挙げよと言われれば、各々が独自の解や例を挙げるだろう。ここに挙げたのもあくまでその一端にすぎないはずだ。その「解を更新し続けること」が私たちの活動であり役割だと今は考える。

これは終わりのない旅路であり、誰か一人がやればよいものでもない。この探究を続け、より大きな波にすべく、designingはinquireのもとで新たなスタートを決めた。

リソースの安定化から、編集部組成、事業化まで、メディア・事業の双方に知識と経験のある組織のもと、デザインの可能性を拓くことに集中できる状態を構築していく。

ここでいう「集中できる状態」とは、自分自身にとっては「言い訳のできない状態」とも言える。正直、designingはinquire体制に移行するまでの3年弱、尻すぼみするように更新頻度も本数も減っていた。様々な言い訳の上で、自分自身がコミットしきれていない状態を正当化していたのだが、それを「言い訳できない」ようにしたのが、今回の事業移管でもある。

この環境で成果が出せなければ、それは純粋に自身の至らなさである。そう言い切れるほどの環境で、designingは再びスタートラインに立った。

「一点突破」と「構造へのアプローチ」の両輪を

今後designingは、純粋なメディアに限らない、多様な価値提供を目指していく。昨年、KESIKI 井上裕太氏を取材した際、氏は自身の活動を「構造へのアプローチ」「一点突破」という言葉で表現していた。

僕の活動は、大きく二つに分けられます。一つは個別プロジェクトにおける“一点突破”、もう一つは社会全体の認識を変えていく“構造へのアプローチ”です。“一点突破”は、自ら手を動かしてロールモデルをつくり、それをみんなが目指すのろし的な役割にしていくこと。(中略)一方の“構造へのアプローチ”は、社会全体の認識や構造を緩やかに変える取り組みだ。

「カルチャー」こそクリエイティブの次なる主戦場——KESIKI井上裕太|designing

メディア運営で真っ先に想起される「情報」という提供価値は、基本的に「構造へのアプローチ」だ。社会構成主義には「Words create world(言葉が世界をつくる)」という言葉があるが、日頃触れる情報は中長期で人々の視野や視座、思考へ影響する。(少なくともdesigningという)メディアは劇的な社会変化は生まないだろうが、中長期で変容を促す役割を担うものと捉えている。

一方で、メディア運営には「情報」のように顕在化している価値だけではなく、多種多様な潜在的価値・知見が蓄積される。

取材記事1本つくるにも、まずは業界のトレンド・社会文脈を入念にリサーチした上で、取材対象を選定する。次にその方の過去取材や発信内容、著書等も丁寧に目を通し、“今伝えるべきこと”と“本人が語るべきこと”を精査、企画としてまとめ上げる。取材では都度2時間弱にわたり濃厚な話を聞かせていただく。その上で2〜3万字にわたる発話内容&既知情報やリサーチを元に、媒体として伝えたいこと、ご本人の思考を踏まえながら1本の記事へとまとめていく。

元『WIRED』日本版編集長の若林恵氏は、「メディアの価値は耳の良さに宿る」と表した。

メディアの価値って、「声の大きさ」ではなくて、「耳の良さ」に宿るんですよね。(中略)つまりは、アンテナの精度の高さであって、受信装置としてのクオリティなんですよ。編集部というのは面白い組織体で、社会のなかからひたすら面白い人やもの、知られていないような情報を集めてきて、その何が情報として価値があって、社会にとってなぜその情報が重要なのか、といったことをひたすら議論している場所なんですよね。そして、それを記事化していくなかで、より思考の精度もあがり、それによって、さらにアンテナの解像度も高くなっていく、ということを延々やり続ける場所なので、まあ、やってる側にとっては、これはひたすら学びのプロセスなんですね。

若林恵に聞く、テクノロジーとカルチャーで未来の都市を耕すには|CUFtURE

designingはそもそも20万人ほどと言われるデザイナー、その中でも特に少ないと推察されるデジタル領域の方々を(現状は)対象にメディアを運営している。正直声の大きさで言えば、業界の著名人のほうが大きい可能性もあるだろう。ただ、「耳の良さ」でいえば自負もある。

そうした潜在的価値は「一点突破」にも効果を発揮する。例えば、大きなインパクトを生もうとする企業や団体をエンパワーメントすることも可能だ。実際、すでにいくつかの企業・団体がその価値を発見し、コラボレーションや協業の話も進んでいる。年内にはいくつかのリリースも出せる予定だ。

活動が多角化するほど、出力先のメディアはより濃く

デザインの深化・探索を通し、その可能性を探究すること
提供価値の幅を広げより大きなインパクトを目指していくこと

designingは担う役割を、いわゆる「メディア」の範疇にとどまらない領域へも広げていく。ただ、私たちにとってはこのメディアは価値を生む上での重要な核であり、探究した可能性を社会へと伝える出力先としても、重要な位置に据えられていることは変わらない。

むしろ、多様な価値を探索・深化していくほど、出力の量も密度も高まっていくはずだ。

新たな挑戦のフェーズに入るdesigningに、是非ご期待いただきたい。

編集長・小山和之

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