デザインすべきは、創造性を引き出す仕組み——WantedlyCDO青山直樹
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デザインすべきは、創造性を引き出す仕組み——WantedlyCDO青山直樹

今の時代のほど、誰もが「デザイナー」を名乗る時代はないだろう。

2016年の『Design In Tech Report』で、ジョン・マエダ氏が「クラシカルデザイン」「デザイン思考」「コンピュテーショナルデザイン」とデザインの領域を分類したように、“デザイナーは絵を描いたりものを作る人”という認識はもはや一昔前のものだろう。

一方で、デザイナーもこうした潮流の中で、自分の領域を拡大していった。事実、デザインエンジニアやデザイン経営などの言葉もここ最近当たり前に聞くようになっている。

領域を越境するデザイナーの多くは、「目的を達成する『良いものづくり』のためなら何でもやる」マインドの持ち主だろう。WantedlyにてCDOを務める青山直樹氏もその一人だ。

彼の“ものづくり”に対するこだわりは凄まじい。実は筆者自身、青山氏の元同僚であり彼の仕事は間近で見てきたが、いい意味で「そこまでやる?」という姿勢に幾度も驚かされた経験がある。エンジニアリングにも造詣が深く、同社CEO仲氏やCTO川崎氏の信頼も厚い。

ひたすらに「良いものづくり」を追求し、自分の適所を探してきた青山氏が見る、デザイナーの価値とは何か。そのキャリアから紐解いていきたい。

青山 直樹(あおやま・なおき)
Wantedly CDO
大学にて建築、インダストリアルデザインと学んだ後、モバイル端末メーカーにてブランドを通したUIデザインとアートディレクションを経験。2015年6月よりWantedly, Inc.にジョイン。フルスタックさを生かしてプロダクト/ブランドコミュニケーションに必要そうなことを領域問わずデザインする一方で Wantedly Design & Editorial チームをリード。2019年9月よりCDOに就任。

「アウトプットとプロセスの両輪」という軸

自分が活きる領域はどこか。

青山氏のデザイナー人生は、その問いと向き合い続け、開拓されていった。

彼の腕は学生時代から頭一つ抜けていた。中高時代には学校側から正式にポスターのデザインを依頼されるほど。こう聞くと、「これを機に大学は美大に進学、グラフィックデザインを専攻」——と続くキャリアを想像するかもしれない。

ただ、氏はそれに浮かれることもなければ、甘んじることもできなかった。自分が勝てないなと感じる知人の存在を理由に、グラフィックデザインとは異なる道を選択。京都工芸繊維大学で建築を専攻し、日夜問わず建築模型を作り続ける日々を送った。

しかし、ここでも彼は「自分のやるべきこと」に確信を持てなかった。作れども作れども、自分の作品よりも良いと思えるものを作る同級生たちの存在が、彼のあり方に問いを投げかけた。

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青山「若い頃って周囲とのちょっとした差でもすごい悩むじゃないですか。自分のライバルがどれだけいるのか気になり調べてみると、建築を学べる大学は200校以上あり、学生はその数十倍、数百倍といる。それを知り、『自分はこの領域で頑張るより、もっと適した場を見つけた方がいいんじゃないか』と思ったんです」

そんな彼が目をつけたのは、エンジニアリングとデザインの間にある領域だった。理由は二つある。一つは、構造と表層をつなぐという点で建築との近似性を感じたこと。もう一つは、グループワークや他の学生の作品を手伝う中での経験だ。

青山 「自分一人の世界観だけで作るよりも、誰かとコラボレーションして、プロセスを整え、形にしていくのは得意だと気づいたんです。そのことに気づいてからは、誰かと協働したり、誰かのプロジェクトをアシストしたりすることに意識的にチャレンジして、成功体験を積むことができました」

良いアウトプットのために、プロセスを含む形になるまでのあらゆる観点を整える。デザインとエンジニアリングの行き来も、彼の目にはアウトプットとプロセスの両輪を担うという意味合いを持っていた。

その後、京都のデザイン会社でUIデザイナーとしてインターンの経験を積んだのち、ハードウェア領域における構造と造形の関連性を学ぶために慶應義塾大学大学院に進学。山中俊治氏に師事し、ロボットや義手、義足といったプロダクトに必要とされる研究を通して、デザインとエンジニアリングを往復しながらスキルを伸ばしていった。

良いものづくりには、良いプロセスが欠かせない

新卒では家電メーカーにデザイナーとして入社。1年目からクライアントに提案の機会を与えられるなど、恵まれた環境でスキルを伸ばしていく。メーカーのデザイン職と言えば、「形のバリエーションをひたすら作らされる」イメージを持ちがちだが、青山氏はそれとは異なる経験を得られた。

グッドデザイン賞を受賞したスマートフォンのプロジェクトでは、ソフトウェア側を担当。グラフィックとインタラクション面でのコンセプトデザインやアートディレクション、ガイドラインを担当するなど、統合的にビジュアルの品質に寄与した。

多くのユーザーが使うプロダクト開発に携わる中では、ユーザーファーストなものづくりの意識も磨かれていった。その中で、どうすれば今以上に良いプロダクトが作れるのかという意識も強まる。注目したのは「チーム」だった。

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青山「より良いアウトプットを生むには、個々人のスキルレベルだけでなく、プロダクトを生み出す環境自体を変える必要があると思いました。というのも、当時の社内はデザイナーとエンジニア、そしてマーケターがそれぞれ別の部署に所属しており、お互いが何をしているかも分からない。結果、全員が同じ目線で議論できていなかったんです。ユーザーが何を求めているかを全員が共有できて、そのために自分の役割が明確になればもっと良いものづくりができるはず。そう思い、開発プロセスの見直しを行いました」

青山氏はデザインとエンジニアリング両方に理解の深いメンバーを外部からアサイン。まずは、エンジニアとデザイナーそれぞれがどのような視点で思考しているかを双方に伝え、目線を合わせて話しやすい土壌を作っていった。

自身も休みを利用してプログラミングを習得するなど、エンジニア側の視点を自ら体得。多様なアプローチからアウトプットをよくするために、プロセスを変えていった。その中では、配属やチーム作りなどHR領域の課題にも着目。適材適所で人が活躍することが、良いものづくりには不可欠という気づきも得た。

青山「自分のやりたいことや得意分野を仕事にできた方が、絶対に効率もアウトプットの質も上がると思ったんです。当時も、プロジェクトへのアサインをマッチングアプリのような仕組みで解決できたら面白いなと考えていました。そんな折に出会ったのがWantedlyだったんです」

仕組みが、クリエイティビティを引き出す

「話を聞きに行きたい」

画面に映る、見慣れない文言が書かれたボタンに青山氏は強く心を引かれた。この文言にこそWantedlyの本質があると直感的に理解した。

青山「言葉のチョイスをはじめ、ユーザー体験をよく練ってサービスを作っているなと思ったんです。これは、チームが一丸となってユーザーに向き合っている企業に違いない。そう思い、実際に“話を聞きに”行きました」

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当時Wantedlyの従業員は20名程度。青山氏の思っていた通り、ユーザーファーストな文化が根付いていた。また、組織のメンバーは各々がオーナーシップを持ち、ユーザーのために個々の専門性を発揮する土壌もあったという。

一方、組織は未成熟。当然ながら、デザインを依頼するフローも整っておらず、デザインリソースもうまく生かせていなかった。かつ、デザイナーに求められる役割も明確ではない。だからこそ、氏はメンバーがより力を発揮できるような仕組み作りに力を割けば、このプロダクト・事業・組織は伸びると確信をした。

入社後最初に取り組んだのは、Wantedlyのブランド体験の言語化。どんなデザインを目指すのかを明確にした。

青山「当時の経営陣にアンケートをし、Wantedlyをどんな会社として世の中に伝えていきたいかを言語化したんです。各々考えはあっても、可視化できていなければ、外部はもちろん社内にも共有できない。逆にいうと、目指す先が見えれば、そこへ向かい各々がクリエイティビティを発揮できると考えました」

こうした生まれたのが、『知的・大胆・洗練』という三つのキーワードだ。これは今でも指針として掲げており、あらゆる体験やクリエイティブの基準となっている。他にも、目指すべきブランド体験に対し、組織がデザインの意志決定をどうすべきかの基準作りにも着手した。

『Wantedly UI Design System』や『Wantedly Graphic Standards』といったアセットも制作。スタートアップ的な事業成長の中でもブランドが足を引っ張らないよう、裏支えする体制を整えた。これらは「アウトプット」をデザインしているようにも見えるが、青山氏にとっては社内のコミュニケーションを円滑にする「プロセス」へのアプローチと捉えている。

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青山「例えば、ボタンの形状、テキストフィールドのスタイルといった各論に悩む手間を省ければ、デザイナーはもちろん、それ以外のメンバーも解くべき課題に集中でき、自身のクリエイティビティを発揮できる。特に、エンジニアとデザイナーのコミュニケーションコストが下がれば、開発スピードが上がり、プロダクトの改善も早まる。結果として、事業成長の観点でも、ユーザー体験の観点でも良い影響を生めますよね」

こうしたプロセスやユーザーの体験に寄与する施策は、売り上げやユーザー獲得数など短期的な数値には表れにくい。ただ、中長期で見れば業務は確実に効率化され、良いユーザー体験は価値を積み上げる。決して派手ではないが、確実にインパクトのある変化に、青山氏は心血を注いだ。

青山「結果論になってしまいますが、事業が伸びれば施策に意味があったと証明できます。僕の取り組みは、続けないとその価値も可視化されません。他方で無理に定量化して説明しようとすると、チームのクリエイティビティを損ねかねない。だから、とにかく数を打ち、成果が出るまでやり続けていきました」

CDOとして取り組む、組織での戦い方

その積み重ねもあり、Wantedlyはプロダクトの幅も広げ、事業的にも成果を積み、2017年には東証マザーズへ上場。スタートアップから、公器として価値を積み上げるフェーズへ移った。

その流れの中、青山氏は2019年9月にCDOに着任。社としても、経営レベルからデザインへコミットする姿勢を明確にした。これはある意味、青山氏が積み上げてきた仕組みとブランドが、一定の成果として認められたとも言えるかも知れない。

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他方で、組織は100名を突破。デザイン系職種こそまだ多くなかったものの、青山氏一人でクオリティを担保するのは難しくなると目に見えていた。そこで取り組んだのが、組織のアップデートだった。

一つは、広告畑出身のメンバーの採用や外部のクリエイターとの協業だ。プロダクトやデジタル領域を中心とする青山氏にとって、広告は専門外。経験こそあったものの、適材適所でない。そこで適材を探ったのだ。

実例として世に出たのが、2021年にリリースされた、従業員の定着、活躍をサポートするエンゲージメントツール郡『Engagement Suite』のCMだ。このプロジェクトでは外資系広告代理店出身のメンバーと、クリエイティブ集団『PARTY』が手を組み形にしていった。

外部の空気を取り込むのは、質向上だけが目的ではない。デザインチーム全体のクリエイティビティを刺激する狙いもあった。

青山「固定されたメンバーでは、どうしても発想が頭打ちになってしまいます。その天井を破るために、社外の飛び抜けた技術を持つ人の刺激は効果的。幾度も打てる手ではないですが、機会を見ながらご一緒し続ければ良い影響があると考えています」

また、各々のクリエイティビティを高めるために、組織構造にも手を加えた。これまでは各事業部付きだったデザイナーをデザインチームとして一つに集約。いわゆるセントラルのデザイン組織を組成した。青山氏は「帰ってくる家のような存在」を作りたかったという。

青山「プロダクト開発の現場だけで仕事をしていると、事業指標をはじめとした数字への意識を求められ、根詰めた仕事の仕方になりかねません。デザインチームは、そういった場から解放され、クリエイティブに立ち戻れる場。個々が自身のクリエイティビティと向き合う機会を、仕組みでカバーしようと考えました」

代替されない、デザイナーの究極的な提供価値

アウトプットとプロセスの両輪を重視する青山氏。当初こそ「やるべきことに対する不安」から始まったその姿勢だが、今は、彼のデザイン観にもつながっている。

青山「僕はデザインが果たす役割を、『価値の種や独自の技術、突拍子もないビジョンを市場とつなげること』だと考えています。市場に届かなければ、どんなに優れたアイデアも自己満足に終わってしまう。それを防ぐために、(アイデアの)作り手にも寄り添わなければいけないですし、市場(=ユーザー)を見て、クリエイティビティを最も発揮できる場も見つけなければいけない。デザインとはそういうものだと思うんです」

この価値観にたどり着いたのは、そこが青山氏自身の適所だったからとも言えるだろう。

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ここで、改めて最初の問いに戻りたい。誰もがデザイナーを名乗れる世の中において、デザインとエンジニアリングを越境してきた青山氏の考えるデザイナーの提供価値とは何なのか。

青山「究極的にはその人の世界観だと思うんです。現在は職人技とされるような、曲線の美や画力の卓越、文字詰めの技術なども、もいずれはAIに代替されていくでしょう。そのときに残るのは、どんな経験をしてたきたのかや、何を大事とするのかといった、その人の内側からしか発露しない領域しかない。そして、その価値を発揮するには、最も活躍できる場所も必要だと思うんです」

青山氏のWantedlyのプロフィールを見ると「この先やってみたいこと」の欄に「ワクワクして生きられる世界をつくる。創造的で、自由で、人間的に。」という言葉が記されている。これこそが青山氏が社会に対して発揮していこうとする価値でもある。

青山「やりたいことがある人には、やれる手段を。やれることがある人には、やるべきことを。そんなふうに一人ひとりのクリエイティビティが発揮されて、自分がやる意味のある仕事をできている。そういった世界を実現したいですね」

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[文]イノウマサヒロ[編集]小山和之[写真]今井駿介

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