デザイン読書補講 1コマ目『UX・情報設計から学ぶ計画づくりの道しるべ』
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デザイン読書補講 1コマ目『UX・情報設計から学ぶ計画づくりの道しるべ』

こんにちはこんばんは、はじめましておひさしぶりです。吉竹です。

このたびdesigning編集長の小山さんから連載のお声がけを頂き筆を執ることになりました。……と言っても「誰やねんお前」となりそうなので、最初に少しだけ自己紹介をさせてください。

まず何をしている人かと言うと、主にデザインのお仕事をしています。専門領域はデジタルプロダクトのインターフェイスデザインで、たまにロゴデザインや写真撮影、執筆などもしています。実はここ(designing)のロゴもお手伝いさせて頂きました。

当初、小山さんからは「デザイナー向けにおすすめ本の書評を書いてもらえませんか」と相談を頂いたのですが、書評が書けるような深い知識や理解があるわけでもないので、自分らしい文脈で語れるコンセプトを考えたところ、タイトルにもなっている『読書補講』の切り口が浮かび上がりました。

きっかけは、自分が非常勤講師を勤めさせて頂いている東洋美術学校さんでの経験です。講義中、学生たちにおすすめの書籍を紹介するシチュエーションがあるのですが、時間の制約もあるためどうしても紹介だけで終わってしまうのがもったいないな、と感じていたんですね。そこで、この連載を補講に見立てることで、対象読者も選ぶ本の基準も、語り口も明確になるのではと思いついたのです(なので、基本的に学生に向けて話しているようなテキストになっています)。

振り返れば自分も学生時代、先生方の選書リストに世界をひろげてもらいました。『誰のためのデザイン?』『Subject to Change』『デザインの生態学』などなど……。読書を通して出会った考えや視点、言葉は今でも自分の中に残っています。そんな体験を、この連載を通してみなさんにも感じてもらえたら嬉しい。そういう気持ちを込めて、いまこの文章を書き始めています。

今日の1冊

さて、記念すべき第一回目はピーター・モービル『UX・情報設計から学ぶ計画づくりの道しるべ』(高崎拓哉訳, ビー・エヌ・エヌ新社)です。

ピーター・モービルさんは「白クマ本」と呼ばれている『情報アーキテクチャ』や『Intertwingled: 錯綜する世界/情報がすべてを変える』の著者でもあるインフォーメーションアーキテクトです。Intertwingledも好きな本なのでいつか紹介したい。

本書はタイトルどおり、計画づくり(プランニング)の視点を学べる本です。計画、と書かれると壮大な話を想像されるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。1章の書き出しも著者の家族旅行のとある場面からはじまっています。原著のタイトルが『Planning for everytihng』からわかるように、本書はプランニングを「どんな状況にも応用できる柔軟なスキル」として解説されています。

なぜこの本を1冊目に選んだのか。理由は2つあります。1つはまさにこの柔軟性と幅広さ。みなさんも日々プランニングをおこないながら生活を送っています。それは朝ごはんの献立を考えたり、学校の課題制作だったり、あるいは「どう生きるか?」という問いなど大小さまざま。ふだん何気なくおこなっているけど、実はそこまで意識を向けていないのがプランニングです。でもだからこそすぐに実践でき、学んで得た経験は学校を卒業したあとも職能に関係なく長く残りやすいのです。

そして、これは僕自身の経験でもあるのですが、在学中はこうしたスキルを講義として学習する機会がありませんでした。もちろん制作課題などを通して触れてはいたのでしょうが、明確に学んではいなかったのです。だからこそ、みなさんに知ってもらえる機会を提供したかった。これがもう1つの理由です。

プランニングと自覚

本書は4つの原則と6つの実践を軸に構成されています。ざっくり説明すると

・今いる場所を認識する
・道のりを想像する
・選択肢を絞る
・決める
・実践する
・振り返る

の章立てとなっています。やや抽象的なワードが含まれていますが、それは本書において「パス」と「ゴール」がプランニングを説明する概念として使われているためです。

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興味深いのは、ゴールを決めてからパスを逆算する考え方が必ずしも適切ではないと述べられている点でしょう。ふだんの生活において、私たちはゴールを設定してから行動することがほとんどです。今日は10時に新宿に着きたいから9時に家を出ようとか、晩ごはんにハンバーグを作りたいからひき肉を買わなくちゃ、という具合に。もちろんこの思考が間違いと言っているわけではありません。それでも本書は、ゴールを設定する前に「自分が今どこにいるかを認識しよう」と投げかけています。

プランは予測に基づいて立てるもので、予測は今の考え方に基づいて立てる。だからこそ、優れたプランニングにはメタ認識、つまり自分の思考プロセスを自覚し、理解することがとても大切になる。

今の状況を自分でしっかりと認識してから、向かうべき場所を探ろうと言っているわけですね。実は僕自身はこの『メタ認識、つまり自分の思考プロセスを自覚』するのが学生時代〜新社会人時代はまったくできていませんでした。

当時の失敗談をひとつ。大学で僕はデザインを専攻していたので、卒業制作が終わると自主展示会(学生が自分たちで外部のギャラリーを借りて催す展示)の話がでてきます。しかも自分たちは1期生だったので先例が存在せず、しかも僕が言い出しっぺだった(気がする)んですよね。たしか。

そして自分が最初に何に着手したか。それはギャラリーを探して事前にお金を支払って予約することでした。はい、この時点でいや〜な予感しかしませんね。どんな経緯があったかは忘れてしまいましたが、結局この自主展示企画は実現しませんでした。人を集められなかったとか日程が合わなかったとか……たしかそんな事情です。

今ならこのプランが適切でなかったと理解できます。当時の自分にとっては「開催すること」がゴールだったんでしょうね。まさに著者の言う「意志と予測の出どころを意識せずにつくられたプランは必ず失敗する」状態だったわけです。はじめようとしたときに自分の状況を冷静に俯瞰できていたら、ひょっとしたら別の未来があったかもしれません。

そんなこんながあって、ようやく自分自身に「自覚的であれ」と言い聞かせられる人間になれました。ただ、この感覚は必ずしも身につけようと思って習得できるものでもないな、とも感じています。

というのも僕の自意識に大きな影響を与えてくれたのは、他ならぬみなさん(実際に吉竹の講義を受講してくれた学生)の存在だからです。講師としての振る舞いを意識すると、どう考えても無自覚であっていいわけがないんですよね。だから役割とか環境にも左右されるのだと思います。

それでも、自覚的であろうとする心がけをぜひ常日頃から意識してほしいと願っています。他人との何気ない会話や街中でのふとした振る舞いも大事ですし、みなさんにとっては課題制作も変化のきっかけになるかもしれません。漠然となんとなく制作するのではなく、自分の現在地をしっかり認識すれば、きっと隠れていたゴールが見えてくるはずです。

本書で、プランとプランニングがそれぞれ別の存在として語られている点も、自分にとっては新鮮でした。それこそはじめに書いたように、僕自身も「プラン」は考えていたし実践もしていたけど「プランニング」は無意識におこなっていたんだな、とそこで初めて認識できたからです。

読み終わってから自分なりに定義してみると、プランは静的でプランニングは動的な概念なんじゃないかと思います。見ての通り現在進行形ですからね。プランをデザインする過程も含めた全体がプランニングになっており、節目節目で可視化されたものがプラン、といったイメージです。

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身近な例で考えてみましょう。お腹が空いたので何か料理を作ろうと考えたあなたは、まず自分の状況を認識する。そこでは冷蔵庫に残っている材料を確認したり自分の体調や感情が要素として出てくるかもしれません。そうして現在地からあなたは「ハンバーグを作る」をゴールを設定する。

スーパーに行くと決めたあなたは、必要な食材や調理工程を頭に思い浮かべながら、プランに則ってスーパーに向かう。ひき肉が買えればゴールにグッと近づきますが、売り切れていたり他の食材に魅力を感じる可能性もあるかもしれません。

もし「ハンバーグを作る」ゴールに固執していたら違うスーパーに行くかもしれませんが、おそらくほとんどの人は店内を歩きながらリアルタイムでゴールを変更するでしょう。そして新たなプランを手に次のステップに進むはずです。例えば「ハンバーグを食べる」に変えた場合、出来合いのものを買えればそれでゴールは達成できますよね。

これが自分なりに理解したプランとプランニングの関係です。プランニングによってプランがデザインされ、プランの実行によりプランニングに変化が起こることの繰り返し。「なんだそんなことか」と思われるかもしれませんが、無意識の行動をいかに自覚的にデザインできるか、がプランニングの肝でもあるのは先述の通りです。

そういう意味では今こうしてキーボードを叩いている瞬間もプランニングと言えるでしょう。連載のお話を頂いたとき、「書評を書く」というゴールをいきなり設定せず、まずは自分の状況を認識したことで、最初に書いたように補講というコンセプトがあらわれ、それによってゴールが明確になってきた。そして今はそのゴールに向かいながら、文章を書いたり直すというプランニングが実行されているのです。

プランニングを通してデザインを学んでみよう

プランニングのいいところは、どんなシチュエーションも練習につながる点です。今日の朝ごはんを作ることも、明日の予定を立てることも、友人のプレゼントを買うのもすべてはプランニングです。1人でできるプランニングは自由度も高く練習に最適ですが、もっと踏み込んでプランニングを意識してみたい方には、何人かで取り組めるシチュエーションがおすすめです。

本書でも、プランニングは周りの人と共有しながら進めることを推奨しています。例えば旅行。いまは社会情勢的に気軽に実行するのが困難ですが、旅行はプランニングを学ぶのにとても適しています。あるいは判断の瞬発力を鍛えたい場合はスポーツやゲームなどもよいでしょう。刻々と変わる状況は、プランとプランニングの繰り返しの練習に最適です。

そして、ここでは書ききれなかったたくさんの視点が本書には綴られています。ページ数も多くなく読みやすいので、興味が沸いた方は通して読んでみるのをおすすめします。

デザインの仕事をしているとプランニングの重要性をまざまざと感じます。それは自分が考えて実行するプランと同じくらい、第三者のプランにも深く関わるからです。デザインされた対象はデザイナーの手を離れて利用者のもとに届きます。そのとき、対象をプランニングに用いるのは利用者自身です。ある人は料理を作るために、ある人は新しい音楽と出会うために。

どんな人が、どんな状況で、どんな感情で使うのか。デザイナーは常に意識し、自分のためではなく誰かの「計画の道しるべ」となるように対象をデザインすることが求められます。そのとき、自己のプランニング経験は必ず活かすことができます。プランニングを通して、ぜひ目に見えないデザインを学んでみてください。

今日の読書補講はこのあたりでおしまいにしたいと思います。どうもありがとうございました。

[文]吉竹遼
フェンリル株式会社にてスマートフォンアプリの企画・UIデザインに従事後、STANDARDへ参画。UIデザインを中心に、新規事業の立ち上げ・既存事業の改善などを支援。2018年に よりデザイン として独立後、THE GUILDにパートナーとして参画。近著に『はじめてのUIデザイン 改訂版』(共著)など。東洋美術学校 非常勤講師。

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