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All TurtlesのUXライターが語る、プロダクトを言葉から支えるUXライティングの重要性——All Turtles Jessica Collier

ジョン・マエダ氏が昨年発表した「Design in Tech Report 2017」に、興味深い記述があった。

今後デザインに携わる人が習得しておくべきスキルリストに、“言葉のデザイン”が含まれているのだ。「デザインプロセスにおいてライティングスキルが重要になる」「UXデザインと、ライティングの考え方は似ている」といった主旨の内容が述べられている。

実際2010年代中盤から、デザインプロセスにおいて言葉のデザインを重要視する流れが起きはじめている。GoogleやSpotifyをはじめとする企業が『UXライター』等のタイトルで言葉を扱うポジションを募集しはじめているのだ。

その中、スタートアップスタジオ『All Turtles』は、同社サンフランシスコ・オフィスのUXライターの来日に合わせて2018年7月12日に「シリコンバレーのUXライターが語る、UXライティングの重要性」を開催した。

All Turtlesは、Evernoteの共同創業者で元CEOのPhil Libin氏が立ち上げたスタートアップスタジオ。今回来日したのは、All Turtlesの共同創業者で、EvernoteやMedium等のプロダクトのUXライティングに携わってきたJessica Collier氏だ。

本イベントの開催にあたり、designingではJessica Collier氏にインタビューをする機会を頂いた。UXライターがデザインプロセスに関わる価値と、UXライティングの必要性を紐解いていく。

言語学のバックグラウンドから“UXライター”のキャリアへ

私たちが普段目にしているインターフェイスは、あらゆるグラフィックと文字情報で構成されている。Jessica氏によると、例えば『Dropbox』のインターフェイス上には27,000個ものワード(単語の意味を指すが、ここでは言語表現の意味も含まれる)が含まれているという。

プロダクトのUIに使われる言語表現は、ユーザーの目的達成をアシストする役割を担う。適切な言語表現はユーザーにより良い体験を提供するが、一方で言葉選びを間違うと体験を損ねることに繋がる恐れがある。

Jessica「デザイン領域において言語表現の重要性が認知されるようになったのは、デジタルプロダクト市場の成熟が1つの要因です。より良いユーザー体験を追い求める中で、ボトルネックが言語表現の中にも存在すると言うことが明らかになってきました。ゆえに“言葉”のプロフェッショナルをチームに加えるという流れが生まれたのです」

Jessica氏はこれまでに、数々のサービスでUXライティングを手掛けてきた。彼女がUXライターとしてのキャリアをスタートさせたのは、およそ6年前の2012年のこと。シアトルに拠点を持つソフトウェア会社『Delicious Monster』からだった。

Jessica「Delicious MonsterのCEOは、プロダクトが抱える言語表現の課題を解決する必要があると考え、言語学のバックグラウンドがある私をチームに招き入れました。ただ、はじめはプロダクトのライティングをする上で参考になるような情報も少なく、手探りのような日々でした」

Jessica氏は数多くのトライ&エラーを繰り返し、徐々にその役割や価値が見えてくるようになったという。Jessica氏もDelicious Monsterで経験を積んだ後、MediumやEvernote等のさまざまな企業でUXライティングに携わりキャリアを重ねていった。

Jessica「当時は徐々に同じような業務に携わる人も増えていましたが、『コンテンツデザイナー』『プロダクトライター』『プロダクトコンテンツストラテジスト』など、さまざまなタイトルで呼ばれていました。私が“UXライター”と名乗るようになったのは、2014年に入社したEvernoteからです」

その後、Jessica氏は数社のスタートアップ等でUXライティングを経験。2017年6月に、元Evernote CEOのPhil Libin氏と共にAll Turtlesのサンフランシスコ拠点を開設し、プロダクト部門を統括するHead of Productに就任した。

Jessica「当時のUXライティングはまるで西部開拓時代のようでした。自分たちの前に道はなく、トライ&エラーを繰り返す中で徐々に進むべき道が見えてくる。今もまだまだ道なかばですが、その価値は市場の変化と共に徐々に認知されるようにはなってきたと思っています」

UXライティングは、課題解決マインドとロジカルシンキングの上に成り立つ

UXライターという言葉が認知される前から、キャリアを積み重ねてきたJessica氏。道なき道を歩む中で、徐々にスキルは体系化され、求められる要素も整理されてきた。Jessica氏はUXライターに求められる要素を以下の3つに定義している。「言語学のバックグラウンド」「プロダクト設計プロセスへの理解、UX原則への理解」「ライティングと課題解決にあたって共同で取り組む姿勢」だ。

この3要素はあくまで素養にすぎない。この力を持ち合わせた上で彼女は「課題解決のマインド」と「ロジカルシンキング」を重視する。ユーザー体験をロジカルに捉え、細かく分析し、改善策を見つける。この視点は、UXライティングにおいて欠かせないものだという。

Jessica「ユーザー体験をロジカルに分析し、課題を見つけ、言葉のブラッシュアップというソリューションに落とし込む。言語学的な言葉の扱い方と、デザイン的な課題解決思考を重ね合わせ繰り返すことが、UXライティングだと考えています」

UXライターとして必要なスキルやマインド、要素を身につけるにはどうすれば良いか。人間中心設計や、コンテンツストラテジー、言語学などを学ぶ機会を得るのもひとつの手だが、Jessica氏はより多くのプロジェクトに携わることを勧める。

Jessica「課題解決の手法を学ぶツールはいくらでも存在します。ただ、より早くUXライティングのスキルや知識、マインドを身につけるのであれば、実際のプロダクトに関わることが一番だと思います。プロダクト開発の全フェーズを学びながら、チームと共に課題を見つけトライ&エラーを繰り返す方が大きな経験値となるでしょう」

拡大する“UXライターの価値”とその伝え方

まだごく一部ではあるが、日本でもプロダクトの開発において言葉を専門に扱うポジションを設け、コピーライターを雇ったり、言葉のガイドラインを制作する企業も現れはじめている。しかしまだまだUXライターという言葉を知らない人の方がほとんどだ。UXライティングの重要性を浸透させていくためにはどのようなことが必要か。Jessica氏は以下のように答えてくれた。

Jessica「まずは『プロダクトの中で、言葉の表現に課題が生じている』という論拠を用意しましょう。一般的なUXデザインにおけるテストと同様に、言葉もABテストなどでその価値を定量的に計ることが可能です。結果から逆算しその重要性を伝えつづけることが、今のフェーズでは必要ではないかと思います」

Jessica氏は、今後、UXライターはプロダクト開発チームにおいて、重要なポジションとして参画するようになるだろうと予想している。実際ある企業では、UXライターがデザイナーやエンジニアを管轄する役割を務めている話もあるという。彼女自身もAll Turtlesのプロダクト部門を統括する立場に就いているようにだ。

確かに、課題解決や言葉を扱う人が担える役割は数多く存在する。組織のビジョンやステートメント、暗黙知の言語化・顕在化に活用できる可能性もあれば、プロダクトのUXを俯瞰して見るプロダクトマネージャー的視点を担う可能性もあるだろう。それらの素養を活かし、どのように組織におけるポジションとして確立していくかは今Jessica氏自身がチャレンジしている領域だ。

Jessica「UXライターはどのようなナレッジ、スキル、マインドセットを持ち、組織においてどのような価値を発揮できるかは、私たちが実践を繰り返しながら明らかにしている状態です。今後UXライターが組織において重要な役割を担い、活躍できる幅を広げるためにも、私たちの手でその可能性を定義づけていかなければいけません。その可能性はとても大きいものだと私は信じています」

Text: Yuuka Maekawa
Edit/Photo: Kazuyuki Koyama

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