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広野萌・坪田朋率いるBasecampは、“仕組み”としてのギルド型組織へ

「完璧なタイミングでした」

「誘われた瞬間、すべてがぴたっとはまったんです」

ふたりは、その意志決定をこのように振り返る。

7月1日、坪田朋氏率いるデザインインキュベーションファームBasecampは、7月中にM&Aを通しクラシルを展開するdelyの傘下へ参画予定と発表された。坪田氏はBasecampのCEOと兼任し、delyのCXOへと就任する。

同時に、M&AされるBasecampのパートナーに、元FOLIOでCDOを務めた広野萌氏が参画。坪田氏ひとりでこれまで経営してきたBasecampはツートップでの経営体制が敷かれる。

キャスターへ事業譲渡された『bosyu』や、Vライバーサービス『IRIAM』、先日リリースされたeGiftサービス『giftee』などを手掛けてきた同社は、新体制のもとギルド組織として拡大を目指していくという。広野氏参画の経緯、そしてギルド組織としての道を坪田氏、広野氏のお二人に話を伺った。

お互いのピースがピタリとはまり実現した共同代表

5月末、広野氏はCDOとして共同創業したFOLIOを退職する旨を発表した。

同社は、創業から3年半ほど。国内株式を取り扱う証券会社としては10年ぶりのオンライン証券で、累計調達額は昨年1月のシリーズA2調達時点で91億円、従業員数も昨年末時点で120名を突破するなど今後も期待されている。

この土台を築き上げてきたにもかかわらず、広野氏があえてFOLIOを離れるという意志決定をした背景には、向き合うべき事業のフェーズ、そして自身がやりたいと思うことの変化があった。

広野「シンプルにいうならば、自分の手で新しい事業を起こしたいと思ったんです。FOLIOは創業から3年半経ち、0→1のフェーズではなくなりました。ここまでの経験を振り返ると、今度は僕が自らの責任のもと、経営者として事業と向き合いたいと思ったんです」

広野氏は大学時代にも一度起業を経験。その上でヤフーを経てFOLIOの共同創業に参画している。自らが起業を志すことも、確かに不思議ではないかも知れない。ただ、退職を決意したタイミングでは、何をやるかはあえて決めなかった。どういった事業を手掛けるかは絞りきらず、一旦は自身の視野を広げるためにも、いくつかのスタートアップを手伝いつつ、経験と知識を深めようと考えていたという。

退職の社内調整が終わった後、広野氏は身近な人へ退職する旨を伝え動いていた。その中のひとりに含まれていたのが坪田氏だ。

広野「4月頃だったと思います。坪田さんに『辞めることになりました』と報告したところ、その翌日に『Basecampを一緒にやるってどうですか?』と連絡が来たんです」

坪田氏は今年の1月頃から、クラシルを手掛けるdelyのCXOとして参画する話を進めていた。こちらの詳細はFastGrowの記事に譲るが、当初はOnedotとBasecampのように、会社にコミットしつつ、自分の手元でBasecampを並行して伸ばしていく想定だった。しかし、dely側は単にCXOとして参画するだけでなく、Basecamp自体をM&Aし、会社ごと一緒にやれないかと提案した。それが、広野氏が退職する連絡をする頃だった。

坪田「ちょうど、広野くんから連絡をもらうちょっと前に、M&Aの形でdelyに参画することを考えていた時期だったんです。意志決定に迷いはなかったのですが、自分がdelyへコミットすることを考えると、Basecampの方向性を模索していた時期でした。様々な事業に関わらせてもらっているし、一緒に仕事するメンバーも増えてきたので一人だと厳しいなと。この打開策として考えたのが共同経営者を立てることです。広野くんから連絡をもらったのは、ちょうどその頃。完璧なタイミングでした」

当時、広野氏は「退職するならうちを手伝ってくれないか」という相談を何社かから受けていた。ただ、いずれも「自分で事業をやるつもりなので」と断っていたという。しかし、坪田氏の誘いだけはこれまでとは異なる心持ちで受け取った。

広野「ひとつは、Basecampの事業領域です。去年、個人事業で様々なスタートアップを支援したのですが、多様な業種を見ると、A社での知見がB社で活きるといった相乗効果があり、支援する上でも、知見を溜めるという意味でもとても良いサイクルが回っていたんです。ですから、起業のためにも、デザイナー・事業家として死なないためにも、しばらくはいくつかのスタートアップを支援しようと考えていました。Basecampはそれと近しい事業に取り組んでいました」

ただ、それ以上に、広野氏がBasecampであればと思えたのは、その環境が大きかった。

広野「とはいえ、一番の理由は坪田さんであり、Basecampだからですよ(笑)。まず、僕のなかでずっと憧れていた、坪田さんと一緒に仕事ができる。今まで培ってきたスキルやノウハウを間近で見られるのももちろん、それらを土台に、スタートアップに貢献もできます。加えて、Basecampに集まるデザイナーも優秀な人ばかり。このチームと一緒に仕事をしたいという思いもありました。やるなら、ここ以上の環境はない。自分のなかでは、誘われた瞬間に、すべてがぴたっとはまったんです」

坪田氏からのメッセージにふたつ返事で快諾、一度対面で会話をしたが、その場で正式に参画する意志を表明した。

フリーランス化が進む中、今求められる“集結する仕組み”

ただ、坪田氏がBasecampを共同代表にしたのは、delyへのM&Aだけが背景ではない。事業を今後どう成長させていくかという観点でも、変化が必要なフェーズに来ていたのだ。

Basecampは、元々坪田氏のもとに寄せられる事業やデザインの相談に対応するため、知り合いのフリーランスを集め、都度プロジェクト化する形で事業を展開してきた。正式な窓口がないにもかかわらず、月数十件もの相談が寄せられ、坪田氏がやるべきと思えるものだけを対応してきたが、1年半経て、ひとりでの限界が見えていた。

坪田「Basecampは、僕が基本的にクライアントとのフロントに立って、サービス設計や組織ビルドの一部を請負い、フリーランスメンバーでチームを作ってプロジェクト化する座組で取り組んできました。ただ、結局僕が全部面取りをしている状態だと、売上的にも規模的にも限界が見えてきていたんです」

加えて、デザイナーを取り巻く社会環境も変化が進んできていた。

フリーランスが仕事を受けやすい環境が着実に広がっており、スキルある人ほどフリーランス化する動きが加速している。この動きに対し、フリーランスで都度プロジェクト化してきたBasecampは、一定の役割を担えるのではという意識もあった。

坪田「ちょうど先日もTakramの田川さんと話していたのですが、優秀なクリエイターやデザイナーがどんどんフリーランス化しているんです。フリーランスになって年収がx倍になったという人が増えた。ただ身の回りは幸せになる一方、日本経済や社会に与えるインパクトという観点で見ると、その影響は細分化されてしまっている。社会をより良くしていこうという動きを目指すとすると、一人でも生きていけるような“ソロプレイヤー”が集結する仕組みや組織が必要になってきていると感じていたんです」

事務所ではなく、エージェントとしてのギルドが担う価値

従来であれば、そのアプローチは制作会社だった。しかし、制作会社は労働集約のビジネスモデル。人を抱えれば抱えただけ仕事を受けなければならず、仕事を選べなくなるシーンもある。それでは、優秀なソロプレイヤーは集まらない。

現状の最適解として坪田氏が考えるのが、これまでBasecampが取り組んできたモデルを拡大していくギルド組織だった。ここ数年フリーランスの増加と並行するようにギルド組織も増えてきている。

先駆けであるTHE GUILDをはじめ、以前designingでも取材したSTANDARD、わりえもん氏率いるUnthem、佐藤ねじ氏率いるブルーパドルなどもこの1年で登場してきた。それぞれ同じギルドといっても組織のつくり方は異なるが、Basecampはその参考をコンサルティングファームに置いた。

坪田「我々が社内に持つのは、コンサルティング会社でいうパートナー(共同経営者)の機能です。パートナーひとりあたりの売上はある程度キャップがでてくるので、パートナーを増やし、関わるクリエイター、クライアントの双方をスケールさせていく。そのひとりが今回の広野くんというイメージですね」

肩書き上は、坪田氏・広野氏共にパートナーとなる。役割を定めるわけではなく、ともにBasecampという場を運営し、それぞれが自走しプロジェクトに携わっていくイメージだ。

広野「お互いそれぞれが責任をもって自走し、魅力的な案件が集まり、結果的に場がよくなる。そんな状態を目指しています。知識を交換し合いながら、案件が入る努力やブランドづくりを達成するのがパートナーの役割というイメージですね」

案件を受ける窓口としてBasecampが存在し、そこにパートナーである坪田氏と広野氏が立つ。パートナーがプロジェクトへまとめ上げつつ、スペシャリティをもったソロプレイヤーを都度仲間に入れ、ともに形にしていく流れとなる。

坪田「ギルド組織と言われるもの自体が徐々に変わってきていると思うんです。昔は事務所型で、組織側がライセンスをもち、営業して仲介をしていくモデルでした。それが、今はエージェント型で、よい案件とよいソロプレイヤーをつなぐことでプロジェクトをつくる活動になってきている。Basecampは、この後者で在り方を模索していこうと考えているんです」

引く手数多のソロプレイヤーを惹きつける、組織と仕組み

ただ、優秀なソロプレイヤーであればあるほど、Basecampに限らず引く手数多。限られたリソースの中で、Basecampの案件へ積極的にコミットし続けてもらうのは、決して容易ではないはずだ。この問いを坪田氏にぶつけると、業務内容、報酬、契約、ナレッジといった場の持つ価値で担保すると教えてくれた。

坪田「まず、Basecampは案件をかなり絞り込んでいます。前提として社長がオーナーシップをもっている案件。かつ、ユーザー体験の設計等、プロジェクトの大枠からこちらに委ねられ、ともに考えるパートナーとしてチームを組める案件。『企画ややるべきことが決まっていて、手を動かしてくれればいい』といったものは基本的に受けません」

現状でも、Basecampには月に20件ほどある問い合わせから1件受けるか否かほどの割合だという。クライアントには、シリーズA,B前後のスタートアップを中心に据え、Aラウンドでの調達前後、もしくはBラウンドまでいき、メインのプロダクトとは別に新規事業づくりを丸ごとサポートすると言った案件が動いている。

坪田「例えば、ZIZAIで立ち上げた『IRIAM』では、代表の塚本さんから『バーチャルのライブサービスをつくりたい』というオーダーだけを受け取り、サービスのプロトタイプから組織づくり、採用等も含め多岐にわたって担当させてもらいました。この場合、デザイナーの仕事というより、プロダクトマネージャー兼コンサルタントの仕事で、事業のビルドアップが主なバリューになる。ここまで担うと、シリーズA,Bのスタートアップでも、早くプロダクト・組織づくりができるので、価値を感じてもらいやすい。ゆえに、ご縁あるお仕事をいただけるんです」

この業務スタイルは、報酬面にも影響をもたらす。人月単価で計算するデザイン業務ではなく、事業づくりに価格をつけるため、クライアントとも積極的に交渉をしやすい。するとプロジェクトへ参画するソロプレイヤーへ支払う報酬面もより強固になっていく。

坪田「Basecampの案件は、ソロプレイヤーの人が直接受ける単価よりも、体感値1.5倍ぐらいの価格をお支払いしているはずです。受ける案件を絞り、しっかりとお支払いできる体制を作っているのはもちろん、フレームワークに合わせて発注してもらうので、生産性を高めやすいのも大きいでしょう」

ソロプレイヤーが相対的に価値を感じやすいのは、金額だけではない。個人では中々強く出づらい、契約周りも適切な形で結べるようBasecamp側で担保している。

広野「坪田さんは顧問弁護士と話をしながら、クリエイターにとって平等な関係で契約を結べるよう、あらかじめ契約のフォーマットを用意しているんです。個人で契約を見るのが得意な人はそう多くはありません。その中で不利な条件にならないように、ポートフォリオにも載せられたり、世に出せるようにしたりといった細かい条件をつけ、契約を巻いているんです」

業務内容や金銭や契約といった相対的な要因以外に、Basecampは“場”に所属する価値としてナレッジの共有にも積極的に力を入れる。企業に所属していれば自然と共有されるナレッジもソロプレイヤーの場合、自ら獲得する機会を作らなければならい。Basecampに所属することで、その共有を高いレベルで得られるという利点をもたらそうとしているのだ。

坪田「知識と知識の相互作用がいかに働くかを丁寧に見るようにして居ます。自立している人たちにはそれぞれ得意領域があるので、そのナレッジを交換し合い、スキルアップしてもらいたい。これはチームでなければできませんから」

こういった、プロフェッショナル間での知識の環流は、今の時代背景を踏まえても不可欠なものになってきていると広野氏も言葉を重ねる。

広野「デザインの定義や担う領域が拡大し、それぞれの専門性も深まる中、あらゆる専門性を網羅したり、いくつもの領域を深め続けるのは非常に難しい時代になっています。その中で、生き抜くには、各々の領域を得意とする人を集めてチームを作ったり、理解が深い人から共有してもらうほうが合理的になるんです」

これは、広野氏、坪田氏ともが日々の業務の中でも感じているところだという。

坪田「チームになる強さはそこにあると思うんです。僕もそうですが、得意領域と苦手領域は必ず存在します。ソロプレイヤーで、それをカバーできる人たちが一緒にいる環境は、かなりありがたい。ある意味、挑戦する上でのセーフティーネットに近いかもしれません」

日本経済を変える、その鍵はデザインにある 

優秀なソロプレイヤーがより大きな仕事へ取り組み、挑戦できる場へ。体制を整え、着実に仲間を増やし、影響力を増していくフェーズへ入るBasecamp。

この変化を持って、Basecampが目指すのは、冒頭でも話した日本経済へのインパクトを与える大きな力を生み出すことにある。

坪田「まずは、日本経済を変えられるぐらい大きなものを生み出せる人を集め、そのときにカウンターパンチを打てるような状態を維持し続けることを目指したいですね。無理に組織を広げることはしないですが、同じ志のもと人が自然と集まりチームになるような、アベンジャーズのような状態が理想だと思っています」

ただ、なぜ両者は「日本経済を変える」ことへこだわるのか。

そう二人に問うと、坪田氏も広野氏も、日本の産業が第三次産業革命以降、衰退していった状態を変えなければという強い使命感を持っていると話してくれた。

坪田「僕が10代の頃、海外へ行くと、カメラもテレビも、あらゆる家電、車など日本製品であふれていました。それがいまは、ほぼ海外製になっている。日本の大企業はデジタルシフトに上手く乗り切れなかったところが少なくありません。これを変えるのが僕ら世代の担うべきミッションのひとつという使命感があるんです」

広野「今、第四次産業革命へ移行し、昔日本が得意とした“ものづくり”がデジタルと融合していく世界が訪れようとしています。これまでのデジタル仕事をしてきた者としては、デジタルとものづくりをつなぐ活動をサポートし、日本が再興する一端を担いたい。そう強く思っています。第三次産業革命までは、日本企業が世界のTOP10を総なめしている状態だったのに、それがいまや1社も残っていない。北米と中国の企業がほとんどです。僕はこの状態から、日本が米中と肩を並べるような状態をつくりたいんです」

広野氏は「その鍵こそがデザインだ」と言葉を続ける。

広野「第三次産業革命ではテクノロジー企業が台頭しましたが、ムーアの法則が終焉し、誰もが平等にテクノロジーを扱えるようになった今、今後はより人間を知り、人を動かせるデザインがますます重要になっていくと僕は考えています。特に多様な視点を集めチームでものづくりをするのが当然になる時代、人をつなぐ役割としても、製品とユーザーに1番近いデザイナーの役割こそが重要になってくる。だからこそ、我々はデザインという手段で、未来を担う事業を次々と創造していきたいですね」

[文]小山和之[写真]今井駿介

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