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140年の歴史をもつ日経新聞社が、データドリブンカンパニーに生まれ変わるまで—— #theguild_study

2018年8月23日、THE GUILDが主催する勉強会『THE STUDY by THE GUILD』の3回目が開催された。

今回のテーマは『データ×UXデザイン』。データ活用を第一線ですすめてきた4名が登壇し、講演とパネルトークが行なわれた。日本経済新聞社からは、電子版の企画開発に携わった鈴木陽介氏が登壇した。

鈴木陽介
日本経済新聞社 デジタル事業BtoCユニット
2001年日本経済新聞社入社、ウェブサイトの運用・編集・記者、新聞記者などを経て2009年から日経電子版の企画開発に関わる。2011年ごろから社内エンジニアによる開発の内製化を主導、初代スマホウェブ版や「爆速化」したウェブ版を担当。2017年データドリブンを加速するための教育制度「データ道場」を開始。現在は機械学習・AIのプロジェクトを管轄しつつ、社内の開発環境の改善や社内人員のトレーニングに取り組んでいる。
https://hack.nikkei.com/

電子版で手にした、データという新たな武器

日経電子版は、データ、技術、デザインを統合したデータビュジュアライゼーションコンテンツの発信で新聞社の新たな一面を切り開いた、コンテンツ業界を牽引するトッププレイヤーだ。月額4,200円のニュース媒体は、現在62万人が購読するまでに成長したという。

華々しい変身劇を遂げた日経だが、元は伝統的な日本企業体質の新聞社だった。

鈴木陽介氏(以下・敬称略)「2010年に日経電子版が始まる以前、当社では日経新聞の顧客情報をほとんど保有していませんでした。というのも、販売代理店がいるという仕組み上、お客さんの名簿を本社に開示することはないからです。その状況が130年間続いていたんですね。それが2010年に電子版がはじまったことで、クレジットカード決済の直取引が可能になり、はじめて、どんな人がどんな記事を読んでいるかを知る土台が作られはじめました」

電子版のリリースを皮切りに、長い時間をかけて社内改革が進められてきた。

2011年からは、外部に委託していたWebサイトやシステムを内製に切り替え、2017年からはデータドリブン思考を育成するプログラムをはじめた。2015年に決行したFinantial Times(FT)の買収も大きな転機だったという。

鈴木「世界中の新聞社でデータを活用する動きが活発になりつつある中、なかでもFTはその知見を多く持っていました。買収以来、社内の意識改革も進み、イギリスのメンバーとのナレッジ交換や勉強会、研修などもおこなわれています」

現在、日経電子版を通して得られる購読データはおよそ800万人分にものぼるという。250万件の記事に対して、何がクリックされ、どこまでスクロールされ、どう遷移していったのかが取得できる。

それらのデータを元に、読者の継続利用率を測る5段階のエンゲージメント指標をたて、読者の状態を可視化できる状態を整備している。

鈴木「もともとはオンプレに外部のシステムを使い構築していたのですが、サーバもAWSへ移行し、システムも内製化。顧客の情報を誰もが簡単に見れるように、“Atlas”というデータプラットフォームを用意し、データの分析や収集の自由度を圧倒的に向上しました」

歴史ある新聞社に、データを浸透させる取り組み

データの利用促進を目的にツールを導入したものの、「使い方がわからない」「パスワードなどを共有できてない」などの事情で利用が進まないことは往々にしてある。日経社内では、そのような状況を防ぐための取り組みをおこなってきた。

鈴木「データの担当者が独自に、“デイタ道場”をはじめました。3ヶ月にわたってデータ分析ノウハウを身につけるためのトレーニング講座です。カリキュラム作りは、データサイエンティストを育成するスクール事業を行っている企業に依頼。毎回5〜10人を集め、SQL基礎と実践編に分けた講座を開催しています」

基礎編ではSQLで簡単なセレクト文の記述や、with句の使い方を学び、実践編ではPDCAの回し方や状況に合わせたカスタマイズ方法を学ぶという。受講対象者は普段データを触る機会の少ないビジネス企画職やデザイナーだ。

鈴木「“デイタ道場”では、データを使った施策を打つための基本姿勢やルールを身につけることができます。具体的には、ビジネスゴールに結びつくKPIの設定や、影響度をシュミレーションし、状況に応じた適切な判断をするスキルなどもを学びます」

データの民主化が生んだ変化

このような取り組みの甲斐あって、社内でデータを活用したプロジェクトが動きつつあるという。

鈴木「ちょうど今日、UIデザイナーがデータを使ったUI改善の報告をあげていました。連載の関連記事欄に前後の連載を見られるUIを実装したことで、クリック率が4倍になったそうです。もともとスクロールに関するデータは取得していなかったのですが、担当者の働きかけによりページ遷移のデータを取得。分析して回遊率を上げる施策が功を奏した事例です」

また、同社では社員のうち200人以上がダッシュボードツールの「Re:dash」に登録しているという。これは、全社員のうち1割弱がSQLを記述できるということだ。

鈴木「データ分析の専任を設けるよりも、現場の改善にデータを迅速に役立てるためには、現場担当者がデータを直接触れるようになることに価値があるのです」

各プロダクトの現場の担当者データを読み、分析をして施策まで立てられるようになれば、議論のレベルは格段に上がる。デイタ道場をはじめとした同社の取り組みは、今後のUIやコンテンツの改善に日々活かされていくだろう。

日経の革新に、引き続き注目していきたい。

Text: Yuuka Maekawa
Edit: Fujisaka
写真提供: THE GUILD

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