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ノーコードは単なるトレンドではない。STUDIOが見据える、その本質|石井穣×甲斐啓真

国内1.8兆円、グローバルでは35兆円規模とも言われるノーコード/ローコード市場。

昨今スタートアップにおける注目領域として、メディアを賑わすキーワードの一つとなっている。

ただ、これは一過性の“トレンド”とも言い切れない。米ノーコードスタートアップの雄・Bubbleの創業者は、ノーコードの思想は1980〜1990年代のAppleやMicrosoftから続く、「伝統的な思想を受け継いでいる」と指摘。よりマクロかつ不可逆な流れとも捉えられる。

日本発で、ノーコードという言葉が話題になる前から、Webサイト制作のノーコードツールを手がけてきた『STUDIO』も実はこの思想に近い。CEOの石井穣と創業者でCPOの甲斐啓真に、テクノロジーの歴史におけるノーコード/ローコードの意味、そして同社がその先に描く未来を訊く。

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ノーコードの波は、今に始まったことではない

ノーコードの歴史を遡ると、1984年に発売されたAppleのMacintoshまでたどり着く。

それ以前、コンピュータはコマンド入力や、コードの記述によって操作されていた。Macintoshは歴史上はじめてGUIによる操作を可能にしたプロダクトだったのだ。

以降、マウスやタッチスクリーンといった入力機器を用いた操作がスタンダードに。同時に、あらゆる分野で「コードを書かずGUIで成果物を作るツール」が登場する。しかし、いずれもメインストリームにはならず。コンピュータの技術革新や、スマートフォンをはじめ新たなデバイスの登場や普及といった環境変化が激しく、今で言うノーコードツールが生まれても、すぐに環境の変化に対応できず廃れてしまっていたからだ。

甲斐「時代が進むと、ノーコードツールもすぐに時代遅れになってしまう。歴史上、それを繰り返してきました。今改めて注目されているのは、Webサイトやスマートフォンアプリなどの制作環境が一通り成熟してきたからでしょう。ユーザー環境や開発言語をはじめ、制作に関わる変化が比較的少ない時代だからこそ、手間を省く技術が改めて求められるようになったのだと見ています」

Webサイト制作の文脈でいえば、ここ数十年でFlashの終焉やスマートフォン/タブレットの登場といった大きな変化があった。ただ、それ以後同規模のドラスティックな変化は起こらず、サイトの情報設計やデザインも一定の“型”が生まれつつある。

石井「Webサイトは見やすいフォーマットが定まってきており、似たような設計、コードで成立する部分も増えてきました。だからこそ、ノーコードツールで多くの要望が実現できるようになったのでしょう。今後もより自由な表現が次々と可能になっていくと思います」

STUDIO株式会社 代表取締役CEO 石井穣

その流れの中、『STUDIO』は2016年4月に開発がスタートした。「デジタルプロダクトにおいて、デザインから実装まで一気通貫で担える“ツール”があれば、(デザインとエンジニアリングの)プロセスを分けずに済むのでは」という甲斐の考えのもとで、だ。以前に掲載した記事に詳しいが、同社は5年ほどの時間をかけ、多くの失敗やユーザーからのフィードバックを得て、プロダクトを磨き続けてきた。

甲斐「僕らはノーコードが盛り上がるより前からプロダクトに力をいれてきたので、しっかりと時間をかけ数々の失敗を積み重ねてこられました。言い換えるなら、すでにノウハウや財産がしっかりと貯まっている状態にある。このタイミングでの盛り上がりは、むしろ追い風と捉えています」

石井「『STUDIO』はもともとデザイナー兼エンジニアとして活動してきた自分たちが一番ほしいプロダクトでした。既存のツールに対する不満もあり、僕らが欲しいと思った機能などを追加してきた。そういう欲望が土台にあるからこそ、ここまで作り続けられているんです」

人間はより“自然に”テクノロジーを使いだす

「より抽象的にコンピューターやデバイスを使えるようになる」

甲斐は、ノーコード/ローコードの潮流の先にあるものをこう表現する。裏側の仕組みはわからずとも、直感的に操作ができる。これが進めば、いずれはインターフェイスもなくなり、言葉で話しかけても音声認識でフィードバックを返してくれるといった世界へと続いていくとみる。

当然、世界中に網目を広げるWeb制作の分野においても、この流れは止まらない。石井はその状況に対して「デザインによる体験設計がより大切になる」と話す。テクノロジーとデザインの両面が進化すれば、Webサイトは人間にとってより自然な存在になっていくという。

甲斐「遠隔でのコミュニケーションの進化を例に考えてみてください。たとえばモールス信号は、人間にとっては明らかに不自然なものですが、当時の技術背景からすれば革新的なものだったはず。それが通信、電話、ビデオ通話と進化していく中で、より人にとって自然なコミュニケーションへ近づいてきた。

いま、あえてモールス信号で会話をしようとは思いませんよね。コーディングも同じなんです。作りたいものを形にする上で、わざわざコードを書くほうが不自然といえば不自然。人間が機械に合わせた方法ですから」

STUDIO株式会社 CPO & Founder 甲斐啓真

人間が「テクノロジー」と感じずに使えるような“自然さ”。それを彼らが見据えるのは、自らのキャリアの出発点となったApple製品への憧憬もある。

石井「ノーコードツールは、Webにおける表現を、より人間らしく実現するもの、と言えるかもしれません。初めてMacbook Airを使った時、僕はそれまでのPCよりも、ずっと人間的かつ直感的で楽しいと感じました。それはテクノロジーとデザインの両面が優れていたから。根底にそういう経験があるから、『STUDIO』でも同様の体験を実現したいと思っているのでしょう」

甲斐「iPhoneを作る時、ジョブズは『iPhoneは魔法のようでなくてはならない』『最も先進的な技術を、魔法のように革命的なデバイスに』と言いました。テクノロジーを感じさせないことへのこだわりゆえでしょう。テクノロジーの都合に人間が合わせるのではなく、人間の都合にテクノロジーを添わせるという意志に強く共感しています」

どこまで“人間的”を突き詰めるか、その分かれ目

もっとも、現在のノーコード/ローコードの流れも、今後大きな変化に飲み込まれていく可能性は否定できない。『STUDIO』のようなツールを多くの会社が作り始めてもいる。デザインデータをAIに読ませ、コードを自動生成するツールなども出てきているという。『Bubble』や『Xano』のようなバックエンドのノーコードサービスも現れた。STUDIOもその変化は肌身で感じつつ、次なる手を打っている。

甲斐「いまは実用的でない技術でも、従来と異なるアプローチで市場観を一気に変えるかもしれない。それが3年後なのか、5年後なのかはわかりません。STUDIOも既存延長のプロダクト強化に加え、自動化なども含めた中長期の研究開発を進めています」

既存延長では、HTMLやCSSだけでなく、Javascriptもノーコード化する「STUDIO Blueprint」の開発が進む。実装されれば表現の自由度は格段に向上するだろう。中長期の目線では、「STUDIO Senpai」というデザインの自動化やサジェスト機能を盛り込んだ研究開発が進んでいるそうだ。

甲斐「Adobe Senseiを筆頭に、テクノロジーによって従来の編集・制作業務は自動化が進んできています。この流れは画像や動画等に限らず、WebサイトやWebサービスにもつながってくる。そして、先ほどお話ししたようなより“人間的”なものになっていくでしょう」

こうした未来を見据えつつ、甲斐はあくまでこの流れに「乗り切らない」ことを志向する。

これは冒頭で触れた、かつてノーコードツールが時代の波に飲まれてしまった背景にも接続される。甲斐の見方では、従来のツールは人間のための表現に大きなコストや労力を注いできた。たとえば、「なめらかな操作性」は人間にとっては嬉しいが、コンピューターが指示を実行する上では余計なものだ。

そのコストや労力はあまりに大きく、対応を続けるうちにツール開発そのものが重厚長大化し、身動きが取りづらくなる。結果として、技術進歩に取り残され、時代遅れのものとなってしまう。

見据えるのは、「こんなWebサイトが欲しい」という言葉からサジェストで自動生成されるような未来像だ。人間が入力する手間を減らし、コンピューター側が要望を自動で変換・生成できれば、複雑なGUIや人間のための表現も不要になる。まさにジョブズの言う「魔法」により近づいた世界観ともいえる。

「言語化できない」ことこそ、STUDIOの強み

他方で同じ市場を見ると、先述したスタートアップはもちろん、海外にはSquarespaceやWebflowといった強大な競合も存在する。

STUDIOは初期より英語版LPを用意するなど海外向けの展開を推し進めており、『Product Hunt』デイリーランキング1位を獲得して注目を集めた経験もあったが、現在は国内ユーザーが過半数。

描く未来に向けて勝負をかけるには、既存延長のアプローチでは“日本”は取れても海外で勝てるプロダクトへの道は険しい。その理解のもと、2022年にはアメリカはカリフォルニア州マウンテンビューに海外拠点を設け、グローバルマーケティング担当者も採用。より積極的に攻めていくという。

甲斐「STUDIOにとっては海外勢の競合のほうが気になる存在。それならば、世界目線で、向こうの土俵で戦うべきだなと。2022年からは海外展開にも本腰を入れていきます。その一環として、僕自身も2022年6月には海外への移住を考えています。こうして宣言しておけば、後に引けなくなりますしね(笑)」

石井「特に制作系ツールはプログラミング言語と同様で、世界で流行れば日本でも流行る。SketchもFigmaもそうです。『STUDIO』もローカライズではなく、グローバルで勝てるプロダクトに進化させる必要がある。

現時点では海外シェアはSquarespaceやWebflow、WixのEditor Xなどに譲っていますが、『STUDIO』の一番の武器である直感的な使いやすさは負けていない。それを維持しつつ独自性を磨き、機能面も強化できれば十分に勝算はあると踏んでいます」

とはいえ、日本発のスタートアップが海外で苦戦する事例は枚挙に暇がない。『STUDIO』の「直感的な使いやすさ」がどこまで太刀打ちできるのか──そう問いかけると、石井は「よく聞かれることではあるんですが」と笑いつつ、こう言葉を続けた。

石井「直感的な使いやすさを言語的に説明できたら、みんな作れてしまうと思うんですよ。非言語的に作れているのが、STUDIOの強みかもしれません。自分たち自身の体験がベースにあり、ああでもない、こうでもないと、小さな部分にもこだわりを持って、一つひとつ作れているから、今の形になっている。そういった道筋自体がカルチャーをかたちづくっている。それが言語化されているとすれば、ミッション&バリューくらいです」

ふたりの言葉を借りれば、ここからは「世界全体を支えるWebのインフラ」を目指すフェーズ。その先にどのような未来像を思い描いているのだろうか。

石井「現在の延長線上で言えば、より中規模や大規模なWebサイト制作に対応したいですし、最終的にはWebサービスも開発できるようになりたい。TwitterやAirbnbのようなサービスが『STUDIO』だけで作れたらいいですね。サービスには運用も付き物ですから、ドメイン取得から、サイト制作、公開後のマーケティングにアナリティクスまで、一気通貫のオールインワン・Webプラットフォームを目指したいです。

STUDIOという一つの場所で、全てがノーコードで済む。そうすれば、無駄な労力は減り、人はアイデアをより自由に具現化し多彩な表現が生まれていく。創造性が解き放たれ、よりよいものが世界に増えると信じています」

ノーコード/ローコードは突然変異的に生まれたものではなく、これまでのコンピュータやデジタルクリエイティブの変遷の中で常に求められ続けてきた。いわば人の普遍的希求を反映したもの。数え切れないほどの波があった中で、STUDIOはこの大きな機を捉え、日本から世界へと挑む。その成果が問われるのは、まさにこれからだ。

[文]長谷川賢人[取材・編]小池真幸[写真]今井駿介

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